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【おしおき】/恵千果◆EeRc0idolE 「聞いてよ美希ぃ! ラブったら昨日部屋に来るって言ったくせに、 待っててもちっとも来やしないの。 あんまり待ちきれないからこっちから行ったら、 気持ち良さそうにスヤスヤ眠ってるのよ。 もう腹が立つとか呆れるとか通り越して、笑っちゃった」 「ふふっ。ラブらしいわね。それで?その後せつなはどうしたの?モヤモヤしてたんでしょ?」 「うっ…そこを突いてくるとは…流石ね、美希」」 「慰めちゃった?」」 「まさか!美希じゃあるまいし」 「…何よその言い草は」 「あら怒った?」 「そんな事で怒る訳ないじゃない。せつなじゃあるまいし…ニコッ。それで?」 「(何かヤな感じ…)無防備なラブに遠慮なく襲い掛かったけど何か?」 「わかってたけど、せつな…アンタって容赦ないわね」 「何よそれ、アナタも襲われたいの?」 「…別に結構よ」 「じゃあまず手でも繋いでみる?…あら顔が赤くなったわよ。ゆでダコみたい」 「そんなこと言うお口は…お仕置きよ!」 ちゅっ 「…悪くないわね」 「…そうかもね」
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私にしか出来ない。美希はそう言った。 何となく、分かる。分かってしまう。祈里が何を望んでいるか。 でも、それでいいのだろうか。私には正しい事が分からない。 でも、祈里が欲しがっているものを与える事が出来るのは私だけ。 それが、本当に祈里の為になるのかは分からないけれど………。 心臓にラブの手の平の感触が残っている。 心は、すべてラブに預けて来た。怖いものなんて何もない。 きっと、祈里にも微笑む事が出来るだろう。 心身を苛まれた祈里との情事の記憶。それを心と体が忘れる事はない。 だけど、私は大丈夫。あれも祈里の本当の姿の一つ。 大切な親友の暗闇なら、それは私にとっても大切な一部に出来るはずだから。 私はリンクルンを手に取る。アカルンを呼び出す為に。 ……… ……………… 灰色の世界。メリハリのあるモノトーンですらない、無限に広がる薄墨の濃淡。 今のわたしがいるのはそんな世界。色もなく、音は水の中にいるように 滲んで膨張し、歪んで聞こえる。 でも、そんなわたしの様子を訝しがる人なんていない。 そんなに注意深くわたしを見て、気に掛けてくれる友達なんて あの3人の他にはいないから。 (ラビリンスって、こんな感じ……なのかしら?) 心一つで灰色に変わってしまった世界を、かつてせつなが暮らした所に 当て嵌めてみる。 (こんなのがラビリンスって言ったらせつなちゃんに叱られちゃうかな。) だって、自分以外は何も変わっていないのに。 教室ではクラスメイトがお喋りに花を咲かせている。 自分に話題が振られれば、適当に相づちを打ち、他の子に話題を流す。 ただそれだけの関係。 多分、学校ではいつもと変わりなく過ごせてる。 当たり障りのない雑談や、級友の頼まれ事をこなす。 それですべてが事足りる。 腫れ物扱いすら、されない。腫れて膿を持ち、疼く傷を抱えている事すら 気付かれない。 ラブや美希、そしてせつななら、自分がこんな風になっていたら 放っておいて欲しくても、そうはさせてくれないだろう。 それ以前に、ここまで沈み込む事を許してくれない。 悩みなんて寄ってたかって強制的にでも解決させられたかも。 色のない世界に閉じ籠る事を決めたのは自分自身。 今まで自分がどんなに色彩と温もりに溢れた世界で暮らしていたか 思い知らされる。 学校から帰ると、する事もなく冷えたベッドに突っ伏す。 もうせつなの香りもとうに消えてしまった。 けど、瞼を閉じれば有り有りと確かな感触を伴い、祈里だけのせつなが蘇る。 記憶の中のせつなを思う時だけ、鮮やかに色彩を纏って世界が変わる。 白磁の様にひんやりと滑らかなせつなの肌。 それが桜色に染まり、硬く強張っていた肢体が祈里の愛撫で 柔らかく解れてゆく。手の平に、唇に熱く吸い付き、そのまま永遠に 絡み合っていたい衝動に駆られる。 黒目がちな瞳に涙の膜を張り、望まぬ快楽を受け入れ、全身を戦慄かせる。 引き結ばれた紅唇は、何も付けなくてもいつもしっとりと艶めいて、 味わう祈里をうっとりとさせた。 白い歯の間から赤い舌が覗き、隠しきれない甘さを含んだ声がこぼれる。 それは耳から脳髄を蕩けさせるようななまめかしさで祈里を狂わせた。 その声音で名前を呼んで欲しかった。 でも体が快楽を受け入れた後は、もうせつなの中に祈里はいない。 せつなはいつもラブの幻影に抱かれていた。 だからせつなが達しそうになってくると、祈里は一切の声を発しない。 それまでは、散々に言葉でいたぶっても。強制的に祈里に愛を囁かせても。 我を忘れ、蕩けてしまえば口にするのはラブの名前だけだろうから。 息を弾ませ、胸を上下させるせつなの目に正気の光が戻ってくると、 決まって彼女は虚空を睨み、唇を噛み締める。 そこに、自分を犯し続ける憎い相手がいるように。 自分にのし掛かったままの祈里の存在を故意に無かった事にしようとするように。 せつなは、そうやって祈里への負の感情を毎回毎回、逃がしていたんだろうか。 祈里を、憎まずに済むように。 せつなはどれほど泣いても、祈里に憎悪の言葉を吐く事はなかった。 どうして、笑顔だけで満足出来なかっんだろう。 決して、手に入らない事は分かっていただろうに。 禁断の果実に手を出せば楽園を追放される。 聖書の頃からの決まりきったお約束なのに。 もぎ取ったところで、果実は食べてしまえばそれでお仕舞い。 唇を滴る芳しい果汁も心までは満たしてくれない。そんな事も知らなかった。 ラブの太陽のように弾ける眩しい笑顔。 美希の澄んだ青空のような晴れやかな笑顔。 せつなの、花がほころぶような可憐な笑顔。 自分はどんな風に笑っていたのだろう。もう、思い出せない。 「後悔なんて……してないもん。」 枕に顔を埋め、硬く目を閉じたたまま、祈里は呟く。 「謝ったりなんか、しない。」 だから気付かなかった。部屋の中に深紅の光が満ちた事に。 「そうなの?よかった。謝られたって困るもの。」 祈里の心臓は、冗談抜きで数秒止まった。 もうこの部屋では絶対に聞くはずのない声を聞いたから。 ようやく動き出した心臓を宥めながら、枕から顔を上げる。 ミシミシと音を立てて体が軋む。 ロボットのようにぎこちない動きで声のした方に視線を向け、体を起こす。 もしそこにいたのがヒグマや雪男でも、これほど動揺しない自信があった。 あり得ないだろう。 だって、彼女自身がもう来ないと言ったんだから。 「………せつなちゃん……。」 どうしてここに?理由を探るより前に、全身の細胞が歓喜に震えていた。 幻ではない、確かな質量を持った姿。空気が伝える体温。 モノクロの世界に瞬く間に艶やかな彩りが刷かれてゆく。 せつなが祈里の椅子に浅く腰掛け、背もたれに身を預けていた。 「安心した。ラブや美希の前で謝られたりしたら、どうしようかと 思ってたの。」 だって、面と向かって謝罪なんてされたら許さない訳にはいかないじゃない? せつなの形のよい唇が紡ぎ出すのは氷の破片を含んだ刃。 薄く紅唇の端を持ち上げ、清楚とも見える微笑みを浮かべている。 「謝罪なんて、そんなものいらないもの。」 私があなたを許す事なんてないと思ってね? せつなは傲然と祈里を見下ろす。少し前まで、立場は逆だった。 皮肉なものだ。ただ、座っている位置が入れ替わってるだけなのに。 せつなはベッドの上で怯え、祈里は女神のように震える囚われ人を ねめつけていた。 支配されていた。身も心も。 目の前で身を硬くして震えている小さな少女に。 今となれば分かるのに。どれほど祈里が怯えていたか。 必ず訪れる終わりに。終わりの後に待っている、終わりのない責め苦に。 せつなと再び同じ空間にいる。その喜びが祈里の全身に行き渡る前に、 せつなの言葉が脳に届く。 上昇した体温が急速に下がり、指先が冷たくなる。 何も驚く事などないはずなのに。まかり間違っても、優しい言葉や 親しみの籠った表情を貰えるはずなどないのに。 祈里は自分の卑しさに身を捩りたくなる。 期待していた。せつなからの甘い温かさを。 叶わぬ想いを抱えた祈里の辛さを労ってくれるのではないかと。 「だって、せつなちゃんが、好きだったんだもの………。」 それなのに、言葉が勝手に唇を離れて行く。 今になって、こんな事言っても何もならないのに。 「せつなちゃんが、欲しかったの。」 せつなはモノじゃない。 そう、ラブに言われたばかりなのに。どうして、こんな事しか言えないのだろう。 「わたし、せつなちゃんがいれば…他に何もいらないよ……。」 だからお願い。わたしを見て。 「嘘ばっかり。散々私をおもちゃにしたくせに。」 楽しんでなかったなんて言わせない。 今さら綺麗な言葉で取り繕わないで。 せつなの瞳に影が落ちる。憐れむような、蔑むような。 薄く微笑んだまま、せつなは祈里の哀願を一蹴する。 「……わたしの事、嫌いにはなれないって言ってくれた……。」 容赦のないせつなの爪に祈里の柔らかな部分が毟り取られる。 祈里はせつなの視線にすがり付く。 せつなを愛してる。弄びたかった訳じゃない。 それだけは、信じて欲しかった。 「じゃあ、そうしてあげるわよ?」 「……え………?」 「あなたのモノになってあげる。これから二人でどこかへ消えましょう?」 せつながリンクルンを振って見せる。 「本当に、何も分かってないのね。」 誰も知らない場所で、二人きりで生きていくの。 あなたを守ってくれる人も、頼れる人もいない。何一つ持たず、誰にも告げず ここから出で行ける? 私がいれば他に何もいらないんでしょう? だったら、出来るわよね?出来るなら、連れて行ってあげる。 そこで、あなただけを見ていてあげるわよ。 私には、本当にそれが出来るもの。 せつなは本気で言っている。それが分かり、祈里の背筋に霜が降りる。 だって、それはせつなはそれを既に経験しているから。 命すら奪われ、体一つでさ迷う事を余儀なくされたせつな。 もし、ラブに迎え入れられなかったらどうなっていたのだろう。 それを思った瞬間、祈里は底の見えない穴に引き込まれるような 感覚に、全身が総毛立った。 祈里がせつなから奪ったもの。それは一時、体を貪るだけの事ではなかった。 せつなが底知れぬ闇から這い上がり、ようやく掴んだもの。 祈里にとっては持っているのが当たり前で、存在を意識する事すらなかったもの。 人は息が出来なくなって、初めて自分が空気に包まれていることを意識する。 祈里が、せつな以外はいらない。そう思えたのは余りに当たり前に 幸せに包まれていたから。 せつなを自分だけのものに出来る。 二人だけで見知らぬ場所で。 祈里も何度も夢想した事がある。 胸を締め付ける途方もなく甘美で、少しばかりのやるせなさを含んだ妄想。 現実には起こり得ないと分かってるからこそ浸る事の出来る、 無邪気で幼稚な一人遊び。 「馬鹿な子。」 せつなは祈里に歩み寄り、惚けたように自分を見つめる祈里の顎に指を掛ける。 「こちらに来て学んだことの一つがね、豊かな人ほど欲張りって事。」 どうしてあんなに欲しがるのかしら?両手にも抱えきれないくらい 沢山持っているのに。 腕から溢れてこぼれ落ちてもお構い無し。 こぼれた分まで、また余分に掴み取ろうとするの。 ねえ、あなたは何でも持っていたじゃない。 温かい家族。分かり合える親友。未来への夢。それを叶える事の出来る環境。 出来の良い頭。可愛らしい容姿。 他にもたくさん。 それなのに、なぜ私まで欲しがるの? 私の他には何もいらない。そんなの嘘。 あなたは何一つ捨てられはしない。 だって自分がどれほどの物を持っているか。そんな事、考えたことすら ない人なんだから。 「あなたは欲張りで、傲慢で、残酷な子供よ。」 自分が持っていないから。それだけの理由で、他の子の片手にも満たない 少ないおもちゃも取り上げられるんだから。 あなたは私から、ラブへの想いと、初めて出来た親友を奪い取ろうとしたの。 打ちのめされる、と言うのはこう言う事なんだろうか。 罪を理解してるつもりだった。 償う為、自分の辛さから逃げていないつもりだった。 何一つ、理解していなかった。単なる独り善がりな自己満足。 泣いてはいけない。そう自分に課した罰さえ忘れ、祈里の頬は溢れる涙で 幾筋もの模様が画かれていた。 せつなは細く繊細な指で祈里の顔中をなぶる。 瞬きすら忘れた瞳から流れ落ちる涙を頬に伸ばし、しどけなく開いた唇を 形の良い爪で弾く。 祈里はされるがままに、せつなを見つめていた。 「……どうすれば、いいの……?」 許して欲しいなんて夢にも思わない。 ただ罪の深さに溺れたくない。 どうすればいい?教えて欲しい。どうすれば、溺れずに済むの? どうすれば………ほんの少しでも償えるの? 「奪ったものを、返してくれればそれでいいわ。」 ラブへの想いは自分で取り戻した。ラブがもう一度与えてくれた。 「私の親友を、返して。」 ブッキーはいつもおっとりと優しく微笑んでくれたの。 彼女といると、ゆったり穏やかな気持ちになれた。 我が儘で身勝手なあなたなんていらない。 ブッキーを、返して。 「………無理よ……。」 また、以前のようにせつなに微笑むなんて出来ない。 ラブの隣で、ラブの愛情で包まれてるせつなと、今までと同じように 並んで歩けと言うのだろうか。 「やりなさい、祈里。」 それ以外のものは受け取らない。あなたは笑わなくてはいけない。 私や、ラブや、美希の為に。 あなたの気持ちなんてどうでもいいの。 だって、これは罰なんだから。辛くなければ意味がないでしょう? あなたは見ていなければいけないの。私が幸せになるところを。 微笑んで、祝福して、そしてあなた自身も見付けるの。 私を手に入れる以外の幸せをね。 せつなの顔が、ゆっくりと降りていく。 祈里は自分の唇がせつなの唇で塞がれるのを、感じた。 何度も味わったはずの唇。 それなのに、初めて触れ合うかのような甘美さに、頭が痺れる。 魔に魂を奪い取られる瞬間は、こんな感じなのかも知れない。 穢れのない天使の口付けのように穏やかなのに、天使には持ち得ない 官能を揺さぶる背徳感。 舌の先すら絡まないのに、粘膜が擦れ合う淫靡さに体の奥から潤いが降りてくる。 無意識に腕が上がり、せつなの腰を抱き締めようとしていた。 「駄目よ。」 柔らかく、しかし短くせつなが拒絶する。 唇を重ねたまま言葉を発したので、開いた隙間で歯が軽く触れる。 「あなたから、私に触れるのは許さない。」 祈里はビクリと震え、所在なげにダラリと両腕を垂らす。 せつなは唇を離し、祈里の唇を指でなぞる。 祈里は自分の唇を這っている白い指の腹をちろりと舐めた。 せつなが咎めないのを見て、指に舌を絡め口腔内に引き込む。 人差し指と中指を音を立ててしゃぶり、指の又に舌を這わせる。 「触らないでと言ったはずよ。」 しばらく祈里の好きにさせた後、指を引き抜き祈里のシャツで無造作に拭う。 潤んだ瞳で見上げてくる祈里。 その胸中は多分に糖分を含んだ痛みに溢れていた。 せつなの側で、せつなの幸せを見届ける。 決して触れられない。二度と、過ちは冒せない。 祈里の背筋に粟立つように震えが走る。 一瞬で終わる許しより、緩やかに永く続く痛みと胸苦しさを。 それが、せつなのくれた罰。 また一筋、涙が流れ落ちる。 悲しいからではない。ようやく、救われた。 痛みを抱き、罰を孕んで生きていく。せつなが逃げ道を示してくれた。 祈里が壊れないように。笑う事に罪悪感を覚えないように。 「今度は、玄関から来るわね。」 ラブや美希と一緒に。 せつなが淡く微笑みを残し、消えて行った。 もう、泣いても良いんだ。後悔か、安堵か、何の涙かは分からない。 それでも、声が枯れるまで祈里は泣いた。 せつなは、祈里がせつなを愛し続ける事を許してくれたのが分かったから。 あなたを愛しています。 例え、指一本触れる事が許されなくても。 ……… …………… (私、絶対アカルンの使い方間違ってるわよね。) せつなは苦笑する。もう何度、自分と祈里の部屋を往復しただろう。 ベッドに腰掛け溜め息をつく。 その途端に、今まで大人しくしていた心臓が胸の中で暴れだした。 せつなは左胸を掴み、顔を歪める。跳ね返る鼓動を抑えようとしながら、 瞳を閉じる。 あれで良かったのか分からない。 ただ、自分は知ってる。 罪を犯した人間は許されるだけでは救われない事を。 罰を与えて欲しい。償いたい。例え、何の意味もない自己満足だとしても。 誰が許すと言っても、自分で自分を許せなければ、穏やかな眠りは訪れない。 彼女を、祈里を罰する事が出来るのは、自分だけだ。 (祈里………笑って…?) 例え、償いの為の無理強いでも。 あなたは偽りの微笑みだと感じるのかも。 でもね、私は知ってる。笑顔は幸せを呼び寄せてくれるって。 あなたが自分を騙して、心ない表情を浮かべているつもりでも。 笑顔はいつか本物になれる。 だって私の事、好きになってくれたあなたは、本当に素敵な笑顔を 私にくれてたもの。 だから祈里。最初は嘘でもいいの。 きっと、次に会った時は笑ってくれるわよね? 『せつなちゃん!』そう、呼んで手を振ってくれる。 あなたには、それが出来るって、私は信じてるから。 6-703エピローグへ
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ラブ「雨ばっかでつまんないなー」 せつな「そう?私は好きよ」 ラブ「どうしてさー。遊びに行けないしダンス練習だって出来ないじゃん!」 せつな「ふふ。相変わらず子供なんだから。」 ラブ「へ?」 せつな「こうして二人っきりになれるじゃない。」 ラブ「あ…」
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【彗星のかけら】/恵千果◆EeRc0idolE ここは美希の部屋。夜が更けてしんとした中、ふいにリンクルンが鳴りメールが来たことを告げる。 その音で美希が目を覚ます。 ん…メール…?こんな時間に誰だろう。訝しく思いながら美希がリンクルンを開くと、差出人は祈里だった。 『きっともう寝てるよね』 文面から、申し訳なさそうにしている祈里の顔が浮かび、美希は思わず微笑みながら急いで返信する。 『起きたわよ。どうしたの?』 返信してすぐ、折り返すように着信がある。美希が起きたことを知り、祈里がかけて来たのだった。 『こんな遅くにごめんなさい。窓を開けて、空を見て!お願い』 「わかったわ」 祈里に従い、窓を開けると、ひんやりした冷たい夜の空気が入り込んでくる。見上げるとそこには満点の星空。 「うわ…すごい星ね…」 『美希ちゃん、オリオン座のそばを見て』 祈里の言葉を聞いて、急いでオリオン座を探す美希。 「オリオン座、オリオン座…ねぇ、オリオン座ってどんな形だっけ?」 『砂時計みたいな形で、真ん中に星が3つ並んでるの』 「あ、これね!」 美希がようやくオリオン座を見つけた時、光がすっと横切った。 「ああっ!今、流れ星が…あ!あっちにも!」 興奮する美希に、電話越しに祈里が話しかける 『今ね、オリオン座流星群が見えるんだって。お願いごとが叶いやすいかしらって思ったら、つい美希ちゃんにも見てもらいたくなって…起こしてしまってごめんなさい』 美希は祈里の優しい気持ちに、心が温かくなる。 「その気持ちが嬉しい…ありがと祈里。それで祈里は何をお願いしたの?」 『美希ちゃんがモデルとして、もっともっと活躍しますように…って』 「それ…だけ?他にはないの?」 もっと甘いお願いごとが聞きたかった美希は、ついつい意地悪く聞き出そうとする。 『ぁん、わかってるくせに!あとは内緒よ』 「わかってるけど、祈里の口から聞きたいな…」 『もう、しょうがないなぁ…これからも美希ちゃんとずっとずっと一緒にいられますように…って』 会話するふたりの上で、幾つもの星たちが流れ落ちてゆく。 「あー満足!それが聞きたかったの」 『恥ずかしいなあもう…なんだか顔が熱いよ』 「照れてる祈里、可愛い。祈りのプリキュアにお祈りしてもらったら、叶うわね、きっと。あ!アタシも祈らなきゃ。祈里とずーっと一緒にいられますように!」 一方その頃、桃園家のベランダでは、ラブとせつなが並んで星を見上げていた。 「先生が言ってたけど、三千年前のハレー彗星のチリがこの流れ星なんだって。そう思って見ると凄いよね」 「ええ…とても古い彗星のかけらが今、光になってるのね…」 「へへー、何だかロマンチックだよね!」 寒さで赤らんだ頬を緩めてラブが笑い、同じく赤らんだ頬でせつなが微笑み返す。 「せつな、知ってる?流れ星にお願いごとすると叶うんだって」 「本で読んだことがあるわ。この国にある言い伝えなんでしょう?」 ラブからの返事がない。見ると、ラブは星空を見上げながら、何事かを呟いている。 「ラブ?何て言ったの?」 「せつながね、これからもっともっともーっと!幸せゲットできますようにって!」 「ラブったら…」 せつなは十分幸せだった。この家に来て、ラブやラブの両親に囲まれ、仲間たちと過ごせる今の時間が、何よりの幸せなのだから。 「じゃあわたしも」 ラブを真似て、せつなも夜空を見上げて呟く。 「これからも皆とずっと一緒にいられますように」 「あたしと、でしょ?」 「んもう…バカ」 くちづけるふたりのシルエットを、星たちの光が優しく照らしていた。
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SSを読み隊! 隊員達が生み出したSSを保管しています。 軽音部メンバーの日常から、背中が痒くなるような甘酸っぱい妄想、 キレのある俺俺詐欺、時にはホロリと来るような涙を誘う良い話まで りっちゃんを応援し隊の一同は紳士の皆様方のSSを心よりご歓迎致しております。 なお、りっちゃん以外のSSも広く受け付けております。 ※1:★マークのついているSSは、投票で上位にあるSSです。 ※2:◆マークのついているSSは、絵職人によって挿絵が描かれたSSです。 スレ別に表示させる +短編-けいおん!メンバー 短編-けいおん!メンバー けいおん!に登場するキャラクターの短編SSを掲載しています。 りっちゃん以外のメイン登場人物ごとにカテゴリ分けをしています。 2人以上がメインで登場するSSはオールキャラとしています。 どのカテゴリ分けにも属さないお話はその他に分類しています。 +オールキャラ オールキャラ けいおん!キャラクターがたくさん登場する短編SSです。 基本的に軽音部員が中心ですが、他にも…? いつものメンバーが繰り広げる、時にハチャメチャな、 時に心がほっとする、そんなお話をお楽しみ下さい。 ◆律とギター 10年後の忘年会3人まとめキャラソンCMBirthday mail from friendsCabayaki!GIRLSGo Tight!HANABIHAPPY BIRTHDAY 憂鬱K-OF!KON教育:りっちゃんの生態Mimikaki! GirlsSとMbelievess「トランスフォーマー/リベンジ」レビューあくまで人生ゲームのお話あずよしありがとうマイコーある夕暮れ時の一コマある日の放課後ある朝での勘違いおにぎり!おまつり!お医者さんごっこお相手は…?かりもの!きっと大丈夫きっと忘れないぎゅうかく!けいおん突破リツンユインけいおん!~そして伝説へ~こうしゅう!こんな反応さわ子しゃっくりが止まらないじゃんけんずぶ濡れせんとう!そんなところ汚いよう……たなばた!たれりっちゃんたーらこーたーらこーちっちゃいりっちゃんてわたし!とりめし!どうしておなかがへるのかな?どっちがどっち?にがおえ!ねえ、ちゃんとお風呂(ryのみかい!はしたなりっちゃんひゃくめーとる!ふぁっく!ふにふに時間ぷれぜんと!まな板ままごと!まわるすしみおのおんがえしみかんみのむしを…みんないるよゆうえんち!りっちゃんのちょっと不幸な1日りっちゃんの味わい方りっちゃんはねりっちゃんサスペンス劇場りっちゃん男の人と駅前にいたよね?りつわん!カラオケ2カレーにスルーキャベツキャッチクリスマス会数日前サプライズ・シャッフル!ジャケット写真スリラーズルい女タダノヒミツドッキリ大作戦!パジャマ"に"お・じゃ・まパンツはどこへ消えた?ブランコプロポーズプロ野球×けいおん!プロ野球×けいおん!オールスター編~試合前~ベースはじめました。ポッキーゲームマイ フレンドマンリーツメイドりっちゃんメイド喫茶ラブコメでよくある記憶喪失リッツ軽音部遠征レッツゴー一雫乙女りっちゃん二十歳を過ぎてから仮病何事もチャレンジ傘忘れるなよ!絶対に忘れるなよ!先着一名予約済出来た子だー!初キスの味刻んでも、奏でても北風と太陽半濁音の病気名前をつけてやる境地夢の中へ太陽拳女王様だーれだ!好きな人?学祭前日の部室実況!パワフル軽音部寝言小ネタ-カラオケ弟の巣立ち弟は語る律「アンバサ!」律とギター律の部屋の日記律アフター心に浮かんだことを、そのまま描けばいいんだからね心の扉戦争ごっこ手の話新境地ペヤンデレ新説白雪姫日食!最速の男最高のバースデー最高潮!桜高チャット歯は大切に澪命濃密な時間?の過ごし方焼肉奉行あずにゃん甘ロリっちゃん甘ロリっちゃん2発想メール私と友と弟と秋の日竜宮城に行ってみれば…笑ってはいけないけいおん!線香花火練習の後置いてけぼり脳内メーカー自主練虹が消えた日蚊行け!桜高軽音部言葉に出来ない軽音ヘルパー軽音ヘルパー 2軽音ヘルパー3輝くのはその笑顔避難訓練金の律銀の律雑誌の撮影雛どりっちゃん髪髪型1位おめでとう +澪 澪 ”私、走り気味でもさ、やっぱ、イキが良くってパワフルな律のドラム、好きなんだよ。” りっちゃんと澪がメインで登場する短編SSです。 りっちゃんの幼馴染であり、(ほぼ)公式嫁である澪。 やはりSSの数も他キャラと比べて群を抜いています。 二人の固い友情(ときどき愛情?)をお楽しみ下さい。 ★夜空のムコウ ★澪のキャベツ克服大作戦! ★奏 ★ひまわり ◆これは、過去の話。昔の話。 70で満足?English Lesson!HAPPY BIRTHDAY!Happy NightmareLIKEMiossion ImpossibleSecretive mioある夏の午後うわ…相変わらずすごいな…澪は…お気に入りの髪抱いて今夜もおやすみこれは、過去の話。昔の話。しやわせずっと変わらないそのころぞうきん!たいせつなひとだいっきらい!だーれだ?とんが律コーンなぁ律、そろそろ練習しないか?なぁ澪、アイス食べたいなごり雪なんなんにわか雨ひげ!ひまわりへびめた!まんざい!むいむいやさしさのかたちわがままりっちゃんイタズラカンセツ違いクーラーの誘惑セロリ -律side-セロリ -澪side-ノスタルジアハイウェイバカ澪!パイナップルヒバリのこころフリッカージャブボクノートボタン付けポットの精メ律ーさんラブレターの結末ランクインランクイン!リッツは肉抜きが苦手仲直りのちゅー傘 続編光原作逆パターン合宿の夜名誉隊長堪能。みおっぱい声変わらないもの夏の日の午後夏の終わりの風物詩夜のなかで夜空のムコウ夜空のムコウ -OTHER STORY-夢ノカケラ天体観測奏寂しがりやの澪幼いこころ手日食は見れなかったけど書いてみた母の日澪のキャベツ克服大作戦!澪の逆襲澪律同棲片道切符生きるのがつらい祭りのあと私に彼氏出来たら10000円な!私律空に架かるカチューシャ空の下で窓の外には -律澪編-笑顔の裏側で終わるものと残るもの絆-きずな-虹が消えた日2運命雨と親友雨の夜に雨の日の優しさ髪の長い男の子魔女旅に出る2人の時間 +唯 唯 ”それでこそ、りっちゃんだよ!” りっちゃんと唯がメインで登場する短編SSです。 けいおん!の主人公である唯。 アニメでは、りっちゃんと息の合ったボケを披露してくれています。 おてんばな二人の悪ノリ展開をお楽しみ下さい。 ○○肉番付ある秋の日このドアを開けてくださいせんのう!せんぷーき!りっちゃーん、錬金術やらない?タルタルソース唯攻め最高のリーダー窓の外には -律唯編- +紬 紬 ”りっちゃんの代わりはいません!” りっちゃんと紬がメインで登場する短編SSです。 普段、澪や唯の陰に隠れてりっちゃんとの絡みがあまり 見られないムギ。ちょっと感覚のズレたお嬢様ですが、 りっちゃんに負けず劣らずステキな女の子です。 りっちゃんとの心温まるお話をお楽しみ下さい。 ★◆普通の女子高生 ◆罪作りっちゃん ★家出少女 ふわふわティータイムキミノコエコンビニ事件夕暮れ時に家出少女律とムギの冬の日律とムギの冬の日2普通の女子高生罪作りっちゃん +梓 梓 ”あの人は、いい加減で大雑把だからパス、かな?” りっちゃんと梓がメインで登場する短編SSです。 りっちゃんの唯一の後輩あずにゃん。 練習熱心で頑固な一面もあり、りっちゃんとは 相容れない部分もあるようですが…? ちょっと大人なりっちゃんと、可愛いあずにゃんの エピソードをお楽しみ下さい。 ★◆音楽と仲間 ◆秘密のレッスン 60年後の君は8月22日Mizumaki!Girlsgoldenmelody「また合宿!」if 深夜の練習相手がもし律だったらある日の部活お見舞いレッドカードサマーバケーションポケモン仲間先輩後輩希望の唄律vs2号恋する気持ち猫と飼い主秘密のレッスン透明少女音楽と仲間 +聡 聡 ”姉ちゃーん、まだー?” りっちゃんと聡がメインで登場する短編SSです。 最終話に登場し、隊員達の羨望の的となったりっちゃんの弟。 学校や部活動では見られないお姉さんなりっちゃんと、 なんだかんだでお姉ちゃんっ子な聡との、暖かな 姉弟愛をお楽しみ下さい。 ある日の田井中家うらやましい弟お前にゃ渡さねーよ!きょうだい喧嘩どらいぶ!ぶらこん!よくある事件りっちゃん2号成長記録ギャップ萌えダメ!ゼッタイ!勘違いりっちゃん姉の呼び方姉の秘密当たり所役得爆走姉弟リッツ&聡爪きりっちゃん田井中聡の苦悩男の子だもん見ちゃいました +和 和 ”ちょっと、律!講堂の使用申請書、また出してないでしょ!” りっちゃんと和がメインで登場する短編SSです。 軽音部メンバー、唯の幼馴染である和。 生徒会に所属しており、部活動関係の書類の提出をよく忘れてしまう 軽音部部長のりっちゃんには手を焼いているようです。 「友達の友達」な関係から徐々に親密になっていく二人のエピソードをお楽しみください。 ある日の出来事ある日の出来事0お母さんと旦那さんきょういん!のどかさんといっしょファンは大切に下校中提出書類最初の人 +さわ子 さわ子 ”でないと、りっちゃんは…心が荒んで、食べきれもしない牛丼の特盛を頼んで、 そしてヤケになり、ヘビメタの道を突き進んで突き進んで…もう、戻れなくなっちゃう…。” りっちゃんとさわ子がメインで登場する短編SSです。 桜高軽音部の顧問であるさわちゃん。 りっちゃんに弱みを握られて無理やり顧問にさせられたハズなのに、 気付いたらすっかり部活(ティータイム)を楽しんでます。 りっちゃんに「さわちゃん」なんて呼ばれても怒らないのは、りっちゃんへの信頼の証! そんな二人のエピソードをお楽しみ下さい。 ベテラン女優律「私がドMで!」漁夫の利さわちゃん +その他 その他 上の分類のどれにも属さないSSを置いています。 GTRしないの?冗談と書いて本気と読む唯×和幼子の宝物超能力者か +短編-俺律 短編-俺律 りっちゃんは俺の嫁、俺の姉、俺の妹、俺の… 隊員達の妄想の数だけ、りっちゃんはいます。 隊員達とりっちゃんの甘甘エピソード、はたまた 何気ない日常のワンシーンなど、りっちゃんとの一時を お楽しみ下さい。 ★夏祭り ★俺と律 ◆寝たふりっちゃん DTAで勝手にエロ動画を削除するりっちゃんHEROHR前の一コマI'm so HappyWake upしてください…この鈍感男!あれ・・・律の靴だおもいで!お兄様☆お部屋デートこの前、律とカラオケに行ったんだ。ご一緒にポテトはいかがですか?しりとり!せっかくだし、散歩にでも行かないか?とっても可愛いぱっつん!ひとりでできる…もん?まるで兄妹もんえん!やきもちりっちゃんりっちゃんとドラクエ!りっちゃんとパワプロ!りっちゃんとモンハン!りっちゃんと腹筋!りっちゃんスペシャルHOTカレーりっちゃん店員りっちゃん店員2りっちゃん店員3りっちゃん店員4りっぱい!アイスアニメキャラの苦悩カホンと律キ○タマSSコンビニジャムセッションセブンイレブンテスト勉強ハッピーバレンタイン インザホスピタルヒモピザラッシュ時の一コマラブコメの定番二人で旅行俺と律俺と律 続編俺と律 3俺と律4出先帰り君がいた夏呼んでみただけ♪地震夏の定番夏の日夏祭り夏色夕立大根おろし!太陽のKiss奏 -俺律編-寝たふりっちゃん対バン少し遅めのクリスマス幸せそうな顔強がりっちゃん彼女もまた特別な存在律「もう最終回だね。」律「ポテチ食べたい!」律「俺、あのさ…」律って将来詐欺に会いそうだよなー律とデート律に勉強を聞く律メイド律祭り律祭り2律祭り3徹夜の代償恋する瞳は美しい恋と友情恋に落ちる音がした持っていかれた普通の言葉なんだけど最終回を前に月曜日の憂鬱朝帰り柔らかくてあったかい法律について知らない顔空の雫窓の外には -俺律編-笑い上戸りっちゃん聡GJ言わせたい誕生日誰だ今の謎の駅員遅刻のお詫びに閉鎖空間の中で隊員の夢離れたくない雨猫りっちゃん雷の夜 +短編-アニメ補完SS 短編-アニメ補完SS アニメのシーンを補完するSSです。 各話ごとにシーン順で掲載してあります。同シーン別パターンは番号分けの上、並べて掲載してあります。 第01話 第02話 第03話 第04話 第05話 第06話 第07話 第08話 第09話 第10話 第11話 最終話 番外編 +短編-俺俺、津、コピペ改変、ネタetc 短編-俺俺、津、コピペ改変、ネタetc りっちゃん同様、隊員達も楽しい事が大好き! 俺俺詐欺や他作品、テレビ番組、ラジオ、雑誌等のクロスオーバー等 隊員達が繰り広げる、面白くてちょっとシュールな作品達をお楽しみ下さい。 あの人気キャラ、”津”も登場します! ★津のこと 5分律面接編5分律! 199の夢DTA購入後の二人ROCKIN'ON JAPAN!SS産業WAになって踊ろう「す、すごい・・・律・・・と紬が・・・」あこがれ!いちおつ! -さわ子編-いちおつ! -和編-いちおつ! -幼澪編-いちおつ! -律編-いちおつ! -憂編-いちおつ! -梓編-いちおつ! -澪編-いちおつ! -甲子園編-いちおつ! -紬編-いちおつ! -聡編-いちおつ!-唯編-いちおつ! -正月編-お前じゃないぎゃるげー!ぎーたのなく頃にくんれん!しゃしん!しーえむ!それはブルガリアたんじょう!ちっこいサンタとっても可愛い…?どうしてこうなったシリーズなにそれこわい1なにそれこわい2なにそれこわい3なにそれこわい4なにそれこわい5なんとかしなきゃばーちゃ!ぱちもん!みのりつ!らみーんりちゅやさんりっちゃんのザ・クイズショウりっちゃん症候群りつわん!エッチする時は…改オード律澪キャラソン発売クイズマジオネアサン田井中とトナ唯スイカにまつわるちょっと怖い話チキンタツタ復活記念ドラクエ9はまだかメタフィクション?ランチタイムリツえもんリツの奇妙な冒険第3部一方光の速さ創刊号は790円!去年と違う夏唯「そんなのりっちゃんのキャラじゃないよ!」唯&澪 キャラソン発売記念!嗚呼!!桜校軽音部店員「ベース始めるんッスかwww」律の 1乙従姉我等が名誉隊員振り返れば奴がいる放課後シルバーソウル放課後ティータイム TV出演!放課後ティータイムin鬼玉放課後ティータイムのOH!MYRADIO!放課後ティータイムのロックンロール劇場!放課後背景ズ暖かい手月曜日の憂鬱・改東京03コント風歴史は繰り返す津のこと皇帝りっちゃんの憂鬱神々の遊び第一次ポケモン対戦 その1第一次ポケモン対戦 その2第一次ポケモン対戦 その3表裏津賭博覇王伝 澪~大富豪編~軽音戦隊K-ONⅤ違いの分かる文具店闇聡雨あそび駅でのお話魔王5分律 +超短編 超短編 りっちゃんのキャラスレ黎明期には、余りSSは書かれず 隊員達のささやかな妄想がポツリポツリと書き込まれるに留まっていました。 そんな書き込みを埋もれさせておくのは少々もったいないので、 ”超短編”として掲載する事にいたしました。 ボリュームは少なめですが、りっちゃんの魅力は十分に表れています。 いないと分かる大切さじゃれあいっと見せかけて…なぁなぁ見てみもったいないりっちゃん起こし方マニュアルエッチする時は…ドライブオンハイウェイノープランドライブホームパーティの後でメイクアップ律の妄想不意打ち仕込み卵かけご飯論争無防備起きろ!身長差 +長編 長編 ここには、長編SSを掲載しています。 シリアス、コミカル、パロディ、ファンタジーetc, 読み応えたっぷりのSSをお楽しみ下さい。 ★★★律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 She may get happy.けいおん!クエストゲイナー「こっちにはボーカルマイクがあぁぁぁぁぁるッ!」君が私で私が君で唯「バイハザ!」律「この体が壊れても、死んでもかまわない」律「最後の演奏だ。おもいっきりやるぞ!」律「私は桜高校軽音部部長、田井中律だ!」律(私じゃ駄目、なのか…!?)監督「4、3…」唯「とりあえず軽音部って所に入ってみました!」笹の葉嬉遊曲 +他スレ 他スレ ここでは、他のスレに掲載されたSSを転載しています。 隊員以外が書いた、様々なSSをご覧ください。 こちらにSSを転載する際には、作者の許可を得た上での転載をお願いします。 +無題 無題 ここには、タイトルのないSSがおかれています。 是非、隊員のセンスを持って、素敵なタイトルを付けてください。 なお、タイトルのつけられたSSは、カテゴリごとに分類し、掲載します。 86-12486-12886-15086-27786-27986-39786-40086-42786-45486-48186-49186-59586-60486-66686-67586-71186-7286-74386-80787-84788-57388-57488-696 挿絵のあるSS一覧 SS/長編/律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 SS/短編-俺律/寝たふりっちゃん SS/短編-けいおん!メンバー/紬/罪作りっちゃん SS/短編-けいおん!メンバー/紬/普通の女子高生 SS/短編-けいおん!メンバー/澪/奏 SS/短編-けいおん!メンバー/澪/これは、過去の話。昔の話。 SS/短編-けいおん!メンバー/梓/音楽と仲間 SS/短編-けいおん!メンバー/梓/秘密のレッスン SS/短編-けいおん!メンバー/唯/りっちゃーん、錬金術やらない? SS/短編-けいおん!メンバー/オールキャラ/律とギター SSをランダムに表示 SSの投票はこちら SSの感想とかあればどうぞ 名前 コメント すべてのコメントを見る 誕生日おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおお -- (律かわええ) 2011-08-21 11 23 13 すごすぎる -- (名無しさん) 2010-06-27 17 35 24 「夏祭り」は凄く良い話ですね^^律ちゃんサイコー!! -- (律ちゃんLOVE) 2010-01-05 12 24 13 ところで。……些か時期を失してしまった感もあるやに思われるけれども、やはり。……長編で、仮称「美少女楽隊ケイオンジャー」(笑)!誰か、「決定版」書いて下さい!! -- (紅玉国光) 2009-09-29 20 08 33 ↓に補足の追記。決して、断じてLリCンSョタCンが喜ぶ様なシロモノを期待している訳ではナイので念の為。(紅玉は変質者は嫌いデス) -- (紅玉国光) 2009-09-23 17 12 28 ふと思ったのだが、りっちゃんは子供の頃、心無い男子連中から、苗字をもじった「いなか」とからかわれたりしていたのではないか……と想像する。で、勿論、怒り心頭に発して男子連中を鉄拳制裁する毎日……。彼女の男言葉で喋る習慣や、豪快?な性格は、その頃に基本が形成されたのではないか?……と勝手に思ってみたりするのだが。どなたか、こんな時期のりっちゃんの物語を上手く(原作と矛盾なく)書いて頂けないものだろうか。切に願う。 -- (紅玉国光) 2009-09-23 17 09 56 本当に、「けいおん!」が好きな人は、物語は勿論ですが、りっちゃんに限らず登場人物全員が好きで好きでたまらないんですねぇ~。本当に、何と素晴らしい、そして幸せな作品なのでしょうか、「けいおん!」は……。FANとして嬉しく、また誇らしく思います。 -- (紅玉国光) 2009-09-23 17 04 40 俺律はどうしても笑ってしまう いや、いい作品?なんだが -- (名無しさん) 2009-07-23 20 53 42 俺普通に俺律好きだけどなー 逆に俺律以外だと読む気しねえ^p^ -- (名無しさん) 2009-07-19 07 20 36 俺律の痛さは異常wwwwwwwwwwwww -- (名無しさん) 2009-07-17 12 40 14
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おお、ロミオ、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの? どうかお父様と縁を切り、ロミオという名をお捨てになって。 私の敵といっても、それはあなたのお名前だけ。モンタギューの名を捨てても、あなたはあなた。 モンタギューってなに? 手でもないし足でもないわ。 顔でもない。人間の身体の中のどの部分でもない。だから――――別のお名前に。 そのお名前の代わりに、私の全てをお取りになっていただきたいの。 「はぁ~、こんな恋がしてみたいよね、せつな。運命すら超えた永遠の愛の物語。女の子の憧れだよ」 「そうね――――私も憧れるわ。恋愛にじゃなくて、その生き方に」 「ええ~っ? あたしはその反対なんだけどな。ねえせつな、ラストはハッピーエンドに変えちゃおうよ!」 「だめよっ! ――――そんなこと、しちゃいけないわ」 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学文化祭(前編)――』 涼しげな風が窓から入り込む。静かに迎える朝、最後に蝉の声を聞いたのはいつの日だったろうか。 高く澄み渡る空を、ひつじ雲がまだらに覆う。 静寂が心に影を落とす。なぜか物悲しくて、過ぎ去った記憶が思い出される季節。 そんな感傷に浸っていると、隣の部屋から大きなベルの音が鳴り響いた。 せつなはクスッと笑う。止めに行ってあげようと思う。幸せな眠りを破るのは、幸せな目覚めであってほしいから。 ラブならどんな風に感じるだろう? 新しい季節、秋の到来を―――― 食欲の秋、実りの秋、スポーツの秋。こんなところだろうか? そうだ、学びの秋も加えてあげなくては。 そんな風に考えていたら、ずいぶんと気持ちが明るくなってきた。 弾む足取りでラブの部屋をノックする。今日から新学期の始まりだ! 久しぶりのクラスメイトとの語らい。活気に溢れ、和気藹々とした独特の空気。自由奔放で、それでいてどこか一体感があって。 せつなは、およそ寂しいなどという感覚からかけ離れた教室の雰囲気が大好きだった。 「何になるんだろう? 楽しみだね、せつな」 「楽しみって、ただのホームルームでしょ?」 「そっか、せつなは初めてなんだ。今日はね――――」 「ラブ~! あなたも実行委員でしょ、早く、早く!」 本来なら退屈な雰囲気の漂う時間割、クラスメイトの瞳が一斉に輝く。 今年の文化祭は秋口の開催となる。特に三年生はその中心であり、最後の思い出作りの場でもあった。 一年生はテーマごとのクラス展示。二年生は催し物。ラブの時はお化け屋敷を作った。散々な目にあったらしいけど……。 花形の三年生は体育館を使ってのステージだ。集団ライブ・映画作成・創作ダンス・演劇など、様々な出し物が提案されていく。 「よし、では多数決の結果により、演劇『ロミオとジュリエット』とする。後は配役だが……」 「先生! 東さんがいいと思います!」 「賛成!」 「賛成!」 「賛成!」 ラブと共に進行を務める由美が目を輝かせて推薦する。『ロミオとジュリエット』の題目を提案したのも彼女だった。 学年の中でも群を抜いた美貌を誇るせつなは、クラスの人気者だ。 容姿だけではない。学力でもスポーツでも、あらゆる面において抜群の能力を誇った。 それでいて驕らず、誰とでも分け隔てなく接し、親切で世話焼きな一面もあった。 唯一欠点があるとすれば、清楚な雰囲気が高嶺の花を思わせて、まるで男子を寄せ付けないことだった。 由美は女子でありながらせつなの大ファンだ。恋に輝くせつなの姿を見たいと思い、ラブと組んで密かに計画していたのだ。 「待って! 私が演技なんて……。やったことがないわ」 「東さんなら大丈夫よ!」 「せつななら絶対似合うって!」 「じゃあ、相手役はラブがやって。これが条件よ」 「えぇ~! あたしがお芝居とか無理だって! ぜったい、無理!」 「じゃあ、私もやらないわ」 「いいじゃない、ラブで。キスシーンとかあるし、どうせロミオ役も女子をあてるつもりだったんだから」 「確かに桃園なら、ロミオにはピッタリだよな」 「ちょっと! それ、どういう意味よ!」 ロミオの片想いの相手、ロザラインに由美。その他、配役が次々に割り振られていく。 役に当たらず、胸を撫で下ろす者。あるいはがっかりする者にも、別の仕事が割り振られる。 主に男子は大道具や小道具製作に回る。女子は衣装の作成。効果音やBGM、ナレーションなんかも重要な役どころだ。 「後は台本よね。これはわたしとラブでやろうか?」 「そうだね! ラストは変えちゃいたいんだ」 「ラブ、変えるって、何を?」 「このお話はね、最後がとても悲しいの。だからハッピーエンドにしようと思って」 「わかった。私も手伝うわ」 「ホント! ありがとう、東さん」 放課後の図書室。ラブと由美、そしてせつなは、顔を付き合わせて一冊の文庫を眺める。 提案はしたものの実際に採用されるとは思ってなかったので、二人とも物語の詳しい知識はなかった。 「呆れた、どんなお話かも知らないで決めちゃったの?」 「だって、代表的な恋愛物だし、大まかな話の流れなら知ってたし」 「ごめんね東さん。素人ばかりの演技になるから、なるべく有名なお話の方がわかりやすいと思ったの」 「これじゃあ台本どころじゃないわね。とにかく一度じっくり読んでからにしましょう」 「本は一冊しかないんだけど……」 「ラブと東さんは同じ家でしょ、借りて帰って。わたしは図書館に寄る予定があるから」 本格的な台本作りは明日からとして、その日は早く帰って本を読むことにした。 「はぁ~、由美に悪いことしちゃった」 「私たちのために図書館に行くことになったのよね。私が行っても良かったのに」 「そうじゃなくてね、由美って、自分がロミオ役をやりたかったんだ」 「由美が? もっと大人しいタイプだと思ってたわ。実行委員を名乗り出ただけでも驚きなのに」 「せつなとの思い出を作りたくてがんばったんだよ。これが最後の大きな行事になるからって」 「そうだったの……。東さんなんて呼ばれてるから嫌われてるのかと思ってたわ」 「それこそ控えめだからだよ。よく一緒にお昼してるじゃない」 「それは私がラブと一緒にいるからでしょ?」 「ちがうちがう、由美はせつなと一緒に食べたいんだよ」 今さら配役の変更は効かないだろう。それに、せつなと演じたいと思っているのは由美だけではない。 せつながラブを指名した時、クラスの男子生徒の間で確かな落胆のため息が零れたのだ。 だったら、せつなにできる精一杯とは―――― 「わかった。ラブ――――この劇を必ず成功させましょう!」 「うん、あたしもがんばる。そして、クラスみんなで幸せゲットだよ」 桃園家の夕ご飯。ラブはせつなと一緒に劇の主役に抜擢されたことを話す。 ラブは興奮気味で、せつなは少し恥ずかしそうに俯きながら。 「凄いじゃないか。二人の娘が揃って主役なんて僕も鼻が高いよ」 「楽しみね、ご近所みんな誘って観に行きましょう」 「うん! みんなでいっぱい練習するよ。台本もあたしたちで作るんだ」 「お芝居なんて初めてだけど、できる限りのことをやってみる」 「頑張りなさい、きっと素敵な思い出になるわ。二人にとっても、わたしたちにとっても」 コンコン せつなの部屋をラブがノックする。読み終えた本をラブが持ってきたのだ。 ウィリアム・シェイクスピア著『ロミオとジュリエット』 古い装丁、ボロボロとなったページ。きっと、大勢の生徒がこの本を読んで涙したんだろう。 せつなは大切そうに表紙を開いてページを捲りはじめた。 「せつなおはよう!」 「おはよう、ラブ」 「どうしたの? せつな、なんだか目が赤いよ」 「昨日、遅くまで本を読んでいたから……」 「何度も読んだの? あたしでも二時間はかからなかったんだけど」 「そうね、もう全部暗記しちゃったわ」 「暗記って……」 文化祭まで後一ヶ月足らず。台本が完成してから本格的な準備がはじまる。 ラブ、由美、せつなは放課後に図書室で待ち合わせた。 「あたしね、やっぱりこのままじゃ悲しすぎると思うの。パッピーエンドに変えちゃおうよ!」 「そうね、じゃあジュリエットの計画を成功させて駆け落ちさせちゃおうか?」 「――――待って! ダメよ、そんなことしちゃいけないわ!」 「せつな、これは劇だからアレンジしてもいいんだよ。隣のクラスなんて一寸法師が桃太郎と一緒に鬼退治するらしいし」 「クスッ、それは楽しそうね」 「そうじゃないの。このお話は、そんな風に軽く扱ってはいけないわ!」 「せつな……」 「わかった、原作のままでやりましょう。それでいいわね? ラブ」 「うん、せつながどうしてもって言うなら反対はしないよ」 「ごめんなさい。由美もありがとう」 「それじゃ始めよっか。今日、明日くらいで目処をつけて練習に入りたいもの」 タイトルと登場人物、上演時間を記入。時間帯ごとに場面を分けて物語の流れを決める。 重要シーンの選択からして大変だった。小説全てを再現していてはいくら時間があっても足りない。 ナレーションや、舞台の入れ替え、殺陣に使う時間も計算しなければならない。その上で登場人物ごとにセリフを落とし込んでいく。 「どうしよう……。こんなに大変だとは思わなかったわ。間に合うかな?」 「あたしも簡単に考えてたよ……。時間を決めてやるのって難しいんだね」 「私にやらせて! 家に帰って続きを考えてみる。それを見てもらうから」 「無理しないでね、東さん」 「あたしもせつなを手伝うよ!」 「期待してないわよ。どうせ寝ちゃうんでしょ」 せつなは家に帰ってから、すぐに部屋に閉じこもって台本に取りかかった。 食事の時に一度降りてきたきりで、食後のお茶も断って二階に上がっていった。 ラブとあゆみと圭太郎が残される。団欒の時間をとても大切にするせつなにしては、大変珍しいことだった。 「せっちゃんどうしたのかしら? 食事もそこそこで部屋に戻っちゃうなんて」 「せつなは、文化祭の劇の台本を作ってるの」 「そうだったの。で、ラブの浮かない表情の原因は何かしら?」 「たはは、やっぱりバレちゃうか。あたしは劇をハッピーエンドにしたかったの。だけど、せつなが……」 「せっちゃんは真面目だからなあ……。原作者の気持ちを大切にしたかったのかもしれないな」 「でも、たとえお芝居でも最後は幸せをゲットしたいよ。なんで悲劇なんてあるのかな?」 「どうしてかなあ……。悲劇の方が心に残るのは確かだと思うが」 「ねえラブ。悲しい結末に終わったとしても、その感動は忘れられない記憶として幸せの一部になるんじゃないかしら」 「わかってる。でもせつなにとって最初で最後の文化祭だから、なるべく楽しい思い出にしてあげたかったの」 「僕は演劇にも文学にも明るくはないが、せっちゃんの真剣な気持ちは伝わってくる。きっと良い思い出になるさ」 「うん、そうだよね。ありがとう、おとうさん、おかあさん」 その日の夜遅くまでせつなの部屋には電気が付いていた。壁越しに、セリフを音読する声や立ち回りの足音なんかも聞こえてくる。 セリフにかかる時間と、セリフとセリフの間。立ち回りの実際の所要時間を計っているのだろう。 手伝いに行こうかと思ったけど、止めることにした。返って邪魔になるような気がしたからだ。 結局せつなは何時に寝たのか、途中で眠ってしまったラブには知ることができなかった。 放課後、外せない用事や部活がある者を除いたクラスメイトが集った。 ラブと由美が、しっかりとした作りの冊子を配っていく。 その台本は三十ページにも及び、セリフだけじゃなく、役者の立ち位置や振舞い方までもが詳細に書き込まれていた。 また、ナレーションの文面、照明や音響の指示、舞台の入れ替えのタイミングまでフォローされていた。 「実は、台本はほとんど東さんが一人で作ってくれたの」 「初めてで、上手くできてるか自信がないの。やっていく中で不都合なところは直していくわ」 「それじゃあ、さっそく練習いってみようよ!」 『お~~!!』 花の都のヴェローナに、勢威を振るう二つの名門。モンタギューとキャピュレット。 古き恨みが今もまた、人々の手を血に染める。 かかる仇より生まれたる、不幸な星の恋人よ。 両家に絡む宿怨に、呪われたる運命か。 憐れに果てる若者よ。愛児の非業に迷い冷め、互いの手と手は繋がれる。 宿世つたなき恋の果て、仔細をこれより語りましょう。 ロミオとジュリエットの儚き恋の物語、これより、はじまり! はじまり~! 「おお、わが友ベンヴォーリオ。僕は恋に落ちている。相手は美人だ、この上もないほどに! しかし、処女神ダイアナの加護があり、どんな誘いも受け入れてもらえない。ゆえに僕はもう、生ける屍も同然なのだ」 「ロザラインか、彼女のことは忘れるんだ。恋から冷める妙薬を授けよう。キャピュレット家で開催される宴に参加するのだ。 仮面舞踏会ならモンタギューが混じっても平気だろう。そこで彼女をある女性と比べるがいい。白鳥と思っていた人は、実は家鴨だったと気付くだろう」 「行ってやろうじゃないか、ベンヴォーリオ。ただし、そんな挑発に乗せられたわけじゃない。麗しきロザラインの美貌を目にするためにさ」 ロミオ役のラブが、ロザラインに片想いして愛の言葉を詠う。ことごとく相手にされず、悲しみに暮れる。 ロミオの友人、ベンヴォーリオ役の子との語らい。彼の計らいで出席することになった、宿敵キャピュレット家の仮面舞踏会。 ロミオの運命の恋人、ジュリエットとの出会いの場であった。 「ストップ! ラブ、いくらなんでも棒読みしすぎよ。ロミオの情熱を表現するシーンなんだから」 「そうは言っても難しいよ、由美。セリフ長すぎだし……」 「これでもずいぶん短くしたのよ。原文はこの数倍あるんだから」 「読み方以前につかえないようにしないとな。桃園はセリフを全部覚えるのが先だよな」 「それこそ無理だって! あたしのセリフ集めただけで何ページになると思ってるのよ~」 「まあ、次の場面いってみましょう」 キャピュレットが一大宴会を催す。ヴェローナでも評判の美人はみな出席し、モンタギュー家の者でさえなければ誰でも歓迎された。 そう、モンタギュー家の者でさえなければ……。 「おお! 姫よ、あなたのお名前をどうか教えてください。天上の光よ! 至高の宝石よ! 日々の営みには麗しすぎて、この世のものたるにはあまりにも貴い。 艶やかに咲き誇る花々も、幻想の世界に住まう妖精も、彼女の前には道端の石ころに等しい。 僕の愚かさのなんたることか! 今ようやく本当の恋を知ったのだ。なぜなら、真の美しさを目にするのは今宵が初めてなのだから」 ロミオはジュリエットの姿を遠目で見ただけで激しい恋に落ちる。ロザラインへの片想いも、その瞬間から遠い過去の思い出となった。 浮気性と責めるなかれ。それまでの彼は、ジュリエットの存在を知らないままに生きてきたのだから。 身元を隠した仮面舞踏会。こっそり楽しむはずが、ジュリエットの美しさに魅せられて思わず声を発してしまう。 正体を見抜いたキャピュレット家のティボルトは剣を抜く。ロミオに襲いかかる矢先に老卿が止めに入る。この家の中での流血は許さぬと。 その様子を見ていたジュリエットもまた、一目で恋に落ちる。 「あそこに居たのは誰? どうかお名前を教えてください。あなたにもし奥様がおありなら、私はこのまま墓場に向かいましょう。 ロミオ! ロミオ様と仰いますの? なんてことでしょう! たった一つの私の愛が、たった一つの私の憎しみから生まれるなんて」 ジュリエット演じるせつなが登場した瞬間、舞台の雰囲気が一変する。 自然と周囲の視線がせつなに集まる。 せつなの身にまとう空気が変わる。漂う高貴なるオーラ。制服を着ているのに、まるでドレスを纏っているように見える。 それまではラブの失敗だらけで、演劇は喜劇の様子を擁していた。その気の緩みが一新される。 クラスメイト全員の表情が引き締まる。これは――――真剣勝負の舞台なのだと。 「待って! 東さん、ラブ。悪いけど、わがままを言わせて欲しいの。みんなも聞いて! 配役を変更したいの。このままではバランスが取れない。女の子が男の子を演じるのはずっと難しいんだって気が付いたの。 東さんをロミオに、ラブをジュリエットに変更してやり直しましょう!」 「由美っ!」 「私は――――どちらでも構わないわ」 クラスメイトの一部から非難の声が上がる。せつなの美しいドレス姿を楽しみにしていた男子は多かった。 由美だって、そうだったはずなのに。 だけど、結局は彼女の熱意に押されて全員が承諾した。ロミオの美貌は、とてもではないがクラスの男子には荷が重い。 そして、ロミオは武人としての強さを秘めている人物だ。激しい殺陣も演じなければならない。運動の苦手なラブには厳しかった。 せつなが本気で演じると決めた瞬間から、これはただのクラスの演劇ではなくなっていたのだ。 舞台の作りも見直された。陳腐なセットでは、返って真剣な演技の雰囲気を打ち壊してしまう。 極力、大道具は使わないことになった。その分、照明と音楽に力を入れて演出する。 舞台はなるべく暗く、登場人物にスポットをあてて存在感を高める。 衣装や小道具も、よりリアリティのあるものを用意することになった。 おもちゃ丸出しの剣や、安物の布切れをくっつけただけの即席のドレスでは不十分なのだ。 「わかった。カツラや衣装、小道具に関しては心当たりがあるの。あたしに任せて」 「その前にラブはセリフを覚えないとね。ジュリエットもロミオと並んで多いのよ」 「それを言わないで……」 他にも一部配役が変更された。ロミオと剣戟を演じることになる、キャピュレット家のティボルト役と青年貴族のパリス役だ。 どちらも剣道部員と空手部員の有段者が務めることになった。 練習を進めていくうちにわかったのだが、普通の男子ではせつなの動きに付いていけない。 剣道も空手も、西洋の剣術とは直接関係ない。それでも立ち姿、体裁きの鋭さ、ハンドスピードの違いは明確だった。 目的はリアリティを与えること。どうせ演技は全員が初体験だ。ならばと、殺陣の立ち回りを重視したのだ。 練習開始初日にして大きな変更を迫られることになった。 それでも収穫のある一日だった。クラスメイト全員が一丸となって、本物を目指した劇の成功を誓ったのだ。 普段より遅めの夕ご飯。今夜はせつなもゆっくりと頂いた。 ラブの食事当番の日だったのだが、二人とも練習が長引いて帰りが遅くなってしまったからだ。 文化祭の主役に抜擢されてから、桃園家の賑やかな食卓は更に明るくなった。話のネタが尽きないのだ。 「おとうさん、お願い! この通り!」 「おいおい、普段はカツラなんて嫌がるのにどうしたんだい?」 「お芝居に必要なの。学校の備品じゃ物足りなくて……」 「わかった。他ならぬラブとせっちゃんの頼みだ、会社にかけあってみよう」 「ラブ、衣装や小道具も心当たりがあるとか言ってたけど、大丈夫なの?」 「うん、そっちはミユキさんに頼んでみるよ。昨年の文化祭でも色々借りたんだ」 やがてお話は練習でのできごとに移っていく。主役を交代したこと。せつなの演技が凄かったこと。 クラスのムードがこれまでにないくらい盛り上がっていること。 「ラブがジュリエットか~。女の子の役なんてできるのかい?」 「ひど~い! あたしは正真正銘の女の子だってば!」 「冗談だよ。ラブは華やかな子だからな、お姫様にはぴったりかもしれないな」 「わたしに似なくて良かったわね。物怖じだけはしない子だもの」 「だけって……」 「でも三年生なんだから、そっちにかまけて勉強がおろそかにならないようにね」 「はぁ~い。そうだ、台本も覚えなくっちゃ……」 「大丈夫よ、勉強もセリフの稽古も付き合うから」 「たはは、お手柔らかにね、せつな」 数日後、ラブとせつなで持ち込んだ大量の荷物を教室で広げる。 貴族を思わせる豪華な衣装。気品溢れるブロンドのファッションウィッグ。 本物の宝石かと見間違うほどのイミテーションの数々。その中でも一際輝きを放つのが―――― どう見ても真剣にしか見えない光沢を放つ模造刀。古来より護身と決闘に使われてきた、レイピアと呼ばれる刺突用の片手剣だ。 「カッコいいな、コレ! 本物みたいなのに軽いし!」 「ちょっと、遊び半分で扱わないで! 刃が無いといっても、当たったら怪我くらいはするんだから」 「東さんに向けるんだってことは忘れないでね」 「私なら平気よ。命のやり取りの再現を、おもちゃでやりたくはなかったから」 さっそく練習が再開される。昨日の続きの決闘のシーンからだ。たちまち激しい剣戟のシーンが展開されていく。 本当に斬りあっているわけではない。どの角度で、どんな手順で斬りつけるのか、その全てに約束がある。 まるでダンスのように、決められた動きを演じるのが殺陣だ。 それでも、せつなの攻撃には殺気があった。格闘技経験のある男子はそれを敏感に感じ取る。 せつなは自ら刃を引き付けて、攻撃をぎりぎりで回避する。そして相手に繰り出す攻撃も、ぎりぎりで身体を外すのだ。 女子は悲鳴をあげ、男子は手に汗を握った。戦いの凄みは凄惨という言葉に置き換えられ、決闘の痛々しさを見る者に伝える。 「東さん、すごい……」 「すごいね。うん、凄すぎるよ。せつな、どうしちゃったんだろう?」 「どうかしたの? ラブ」 「家や教室じゃいつも通りなんだけど、お芝居をしてる時のせつなは、なんだか別の人みたいに思えて……」 「ロミオになりきってるってこと?」 「それもあるだろうけど、そうじゃなくて――――」 精一杯頑張るのはせつなの生き方だ。何に取組んでも、全力で挑んでことごとく成功させてきた。 だけど、今回は違う気がする。なんだか生き急いでいるような、無理をしているような、悲鳴を上げているような……。 これではまるで――――ラブだけが知るかつての彼女のようだった。 ラブの心に不安の影がよぎる。 (そもそも、せつなはどうしてシナリオを変えることを拒んだんだろう……) ラブの不安を肯定するかのように、通し稽古は悲劇の終盤へと向かっていった。 新-080へ
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第30話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まであがれ!(後編)――』 四人は大凧を公園に運んできていた。運ぶこと自体は大変ではなかった。 その大きさに比べて、驚くほどに軽いのだ。それでいて、とても頑丈にできている。あらためて大変なものだと感心する。 せつなは緊張した面持ちでタコ糸を握る。凧の骨組みは強靭で、生地も和紙ではなく布地だった。糸もとても丈夫な素材で作られていた。 揚げ方の簡単な説明は聞いていた。でも、それは主に怪我をしないための配慮であり、成功を願った助力ではなかった。 ラブと美希が左右から凧を支える。引っ立てと呼ばれる役目だ。凧の糸が張った瞬間に上に押し上げるように離す。 祈里は尾っぽ係りだ。尻尾が絡まないように束ねて、凧の浮上と共に手を離す。 揚げるのはせつな一人。それがせつなから切り出した約束だった。 周囲には軽く人だかりができていた。 ジャージ姿の女の子が、大きな凧を抱えて揚げようとしているのだ。人目に付かないようにするなんて不可能だった。 中にはおじいさんの姿もあった。大凧揚げは危険を伴う。観衆が近寄り過ぎないようにロープを張っていった。 「ラブ、美希、ブッキー、準備はオーケーよ。行くわ!」 『オーライ!』 十分な準備運動を終えたせつなが助走のモーションに入る。 ラブたちはカウントを数える。 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まで上がれ! (後編)――』 勢いよくせつなが走り出す。放たれた凧が上昇していく。周囲から歓声が巻き起こる。 しかし、それも長くは続かなかった。 風が弱くて浮力が足りないのか、せつなの揚げ方に問題があるのか、たちまち失速して落下してしまった。 がっかりする人々。表情一つ変えないおじいさん。せつなたちは黙々とスタート地点に凧を戻す。 容易なものではないことくらい、始めからわかっていた。 大切な凧を傷付けないように、慎重に準備してから再び走り出す。 しかし、やはり十メートルも揚がらないうちに落下してしまう。 せつなたちはあきらめず、何度も何度も繰り返した。 飽きたのか、諦めたのか、観衆は一人、また一人と去っていく。 開始から一時間が経過したところで、せつなの足がもつれて転倒した。三人が駆け寄る。 せつなの息は上がり、足も腕も震えていた。 大凧の抵抗を受けながら全力で走る。それはタイヤをいくつも引いてダッシュを繰り返すようなものだ。 体力には自信のあるせつなにも、相当に過酷な負担であった。 「せつなちゃん、もうあきらめよう。こんなの一人で揚げられるわけない」 「大凧って、何人かで協力して揚げるんじゃなかったっけ?」 「せつな……。大丈夫?」 「あきらめないわ。無理をお願いするんだから、こっちも無理を通さなきゃいけないの」 せつなは立ち上がり、ふらふらと落下した凧を取りに向かう。 全長四メートル。大凧としては小さな部類に入る。体格のいい慣れた男性なら、一人で揚げてしまう人も存在する。 でも、せつなの体は女性の中でも決して大きい方ではなかった。まして凧揚げなんて、生まれて始めての経験だった。 その後も、休憩を挟みながら凧揚げは三時間も続いた。空が暗くなり、これ以上は無理と判断する。 「気は済んだか? 根性は認めてやるがもう諦めろ。凧は返してもらうぞ」 「待って――ください! まだ降参はしていません!」 「まだやるつもりなのか?」 「期限は決めてないはずです。揚がるまでやります!」 「――好きにしな。凧は壊しても構わねえが、怪我だけはするんじゃねえぞ」 「ありがとうございます」 せつなは寒い中を一日中付き合ってくれた、ラブと美希と祈里にも丁寧にお礼を言った。 明日からは、なんとか一人でやれるように工夫するからって。 みんな何かを言いかけて、その言葉を呑み込んだ。せつなは一度言い出したら、決して聞くような性格ではなかったから。 夕刻の桃園家の食卓。 色鮮やかなお刺身が並ぶ。今夜は手巻き寿司だった。 熱々のお吸い物から湯気が立ち昇る。とても楽しい食事になるはずだった。 だけど――そこに、せつなの姿はなかった。 「ラブ、せっちゃんはどうしたんだ?」 「どこか、具合でも悪いの?」 「そうじゃないんだけど……。凄く疲れてるみたいで、部屋に戻るなり寝ちゃったの」 「凧揚げね、女の子の遊びじゃないのに……。無理して体を壊さなきゃいいけど」 「起こせないのか?」 「ごめん、起こしたくない」 いつもなら、花が咲いたように明るい桃園家の食卓。でも、せつなが一人いないだけで凄く寂しくて。 みんな口数も少なく、静かに食事を終えた。 コンコン コンコン コンコン 時間を開けながらの三回のノック。あゆみがお盆を抱えてせつなの部屋の前で待つ。 普段なら、寝ていても足音だけで目を覚ますような子だ。よっぽど疲れているんだろうと思った。 「おかあさん、ごめんなさい。こんな時間になってるなんて……」 「いいのよ。お雑煮を作ってみたの、これなら消化もいいわ」 一階に降りてちゃんと食べると言うせつなに、あゆみは部屋で食べることを促す。 少し二人で話したいと思ったのだ。 美味しそうにお餅を食べるせつなを、あゆみは優しく見つめる。 別に病気って訳ではないのだから、目が覚めれば元気なものだった。 食べている中で、せつなの手のひらが赤く擦り剥けていることに気が付く。少し血がにじんでいるようだ。 あゆみは救急箱を取りに戻り、手当てをしながら今日の出来事を詳しく聞いた。 「そうだったの。できるなら止めたかったけど、それじゃあ無理ね」 「心配かけてごめんなさい」 「いいのよ、わたしも職人の娘だもの」 「源おじいさまって、どんな方だったんですか?」 「その方と似てるわよ。一針一針心を込めて縫いこんでいくから、畳には価値があるんだって」 「職人って、幸せに対して妥協しない人のことなのね」 「そうね、機械縫いの畳や絨毯なんかとは最後まで相容れない人だった」 そして、そんな自分が時代から取り残される存在であることにも気が付いていた。 だから、圭太郎に跡を継ぐことを勧めなかったんだって。 心が痛む。ここにも――居たんだ。幸せの輪から外れそうになりながらも、懸命に頑張っていた人が。 きっと、おじいさんと同じような寂しさを感じながら畳を縫っていたんだと。 その技術が自分の代で途絶えることを知りながらも、決して最後まで信念を曲げなかったんだと。 「おかあさん。私はおかあさんが買ってくれたこのベッドも好きだし、ラブの畳のベッドもどちらも好きよ」 「うん、そうね。それでいいのよ」 「凧も、おじいさんのためだけに揚げてるんじゃないの。何一つ上手くいかない凧揚げが、楽しいと思ったの」 「せっちゃんを手こずらせるなんて、その凧も相当なものね」 「うん、だから――思い切ってぶつかってみる。凧にも! おじいさんにも!」 せつなは瞳を輝かせてあゆみに宣言した。精一杯がんばるわって。 あゆみも、それでこそわたしの娘よって、そう言ってせつなを抱きしめた。 そして、紙袋をせつなに手渡す。 それは、圭太郎がデパートを駆け回って探してきたもの。柔らかい羊の毛皮で作られた手袋だった。 これなら手の感覚を妨げずに、糸の摩擦から手を守ってくれる。彼もまた、せつなが諦めないことを確信していたのだった。 早朝の公園。せつなは凧を支えるための台を作ろうとしていた。棒状で地面に差込むタイプだ。 物干し竿の台座のような形状で、少し引っ張れば倒れてしまうように浅く差し込む。万が一にも凧を引っ掛けないための配慮だった。 しかし、いざやってみると思うようにいかない。昨日よりも更に浮上具合が悪いように感じた。 手を離す瞬間に、軽く上に押し上げてもらう。ほんの小さな力なのだが、それがないことが原因だと思えた。 そんなところまで器具で再現はできない。無い物ねだりをしても始まらない、今ある状況で頑張るだけだ。何度も繰り返し挑戦した。 「あ~もうやってる。せつな、早いよ!」 「見てられないわね、ほら貸しなさい!」 「待たせてゴメンね、せつなちゃん」 「みんな……。どうして?」 「せつな抜きで遊んでも楽しくないよ」 「今日だけじゃ済まないかも知れないわよ?」 「いいわ、冬休みが終わるまでだって付き合うわよ」 「昨日だって、結構楽しかったよ」 みんな、せっかくの休みを返上して付き合ってくれるという。 せつなの胸が温かくなる。勇気が湧いてくる。そう、四人一緒で出来ないことなんてあるわけがないんだ! 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 十メートル、二十メートル、徐々にではあるが揚がる距離が高くなっていく。 しかし、そこまでだった。どうしても風に乗り切らずに落下してしまう。 あるいは、せっかく風に乗ってもバランスを崩して横滑りして落ちてしまう。 おじいさんが言っていた、職人の教えを思い出す。 (迷わず、一心に数をこなせ。後は指が教えてくれる) 一心に数をこなす。でも、それだけじゃ駄目だ! 指が教えてくれる? 指? 今までは、凧の動きを目で追って操作しようとしていた。それではタイミングがどうしても遅れてしまう。 指が握っているのは糸。何のために四十三本もの糸が取り付けられているのだろう? 操作するために決まっている。バランスを取るために決まっている。その四十三の糸を束ねる一本を自分は握っているんだ! 凧の動きは――風の動きは、糸が教えてくれる。それを指で感じとるんだ。そのために数をこなすんだ。 凧が大きいからって、自分の操作まで大雑把になる必要は無い。 大きくたって、繊細に作られている。そんなのわかっていたはずなのに。 感じろ! 空と自分とを糸で繋ぐんだ。 糸がたるむ前に引いてやる。糸が引っ張られる前に送ってやる。 これは大空と自分との綱引きだ。綱引きのコツなら知っている。ただの力比べなんかじゃないって! ほんの小さな風を逃がさずに掴む。風に対処するんじゃなくて、風を予測して操る。 徐々に、しかし、目に見えて凧が大きく揚がるようになって行く。 そして、ついに高く、高く舞い上がった! 「やった! 揚がった!!」 「せつなっ!」 「せつなちゃん!」 グングンと高度が上昇する。糸を送る速度が追いつかない。 そして、突風! せつなの腕がもげそうなくらい強く引っ張られる。両手で支えるものの、体が一瞬浮き上がり引き倒される。 そして、そのままズルズルと地面を引きずられた。 「痛ッ――!」 「せつなっ! 糸を離して!!」 せつなは決して離さない。そのまま数メートル引きずられて凧は落下した。 「くっ、後少しだったのに……」 「せつな、大丈夫?」 「平気よ、少しコツがつかめた気がするの。次は上手くやってみせるわ」 「良かった、でも明日にしよう。もう遅いよ」 せつなは惜しそうにしたが、あゆみのことを思い出して今日は引き上げることにした。 これ以上、心配をかけるわけにはいかないから。 そして、三日目の朝。これまでとは違う、自信を漲らせた表情のせつなが立つ。 目を閉じて静かに時を待つ。風の音を聞いているのだ。 そして、風の流れが変わる。目を開き――走り出す! 弾かれるように、速く――鋭く! 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 ラブと美希が勢いよく凧を上に投げ出す。祈里が足をほぐすように広げて離す。 せつなは凧を引きながら糸を操る。 時に引きながら、時に繰り出しながら。 そして、突風! 体重の無いせつなは、力で支えることができない。 右の持ち手を左で支える! 浮き上がった体を空中で丸める! 体が落下する力を利用して、更に凧を引き上げる。 丸くなって座り込み、地べたを這うようにしてコントロールを立て直す。 高く――高く――高く――凧が大空に舞い上がる。 一定以上の高度に達した凧は、抜群の安定感を見せる。 もう、バランスを崩すことはないだろう。 しかし、引き上げる力は強烈だった。有無を言わせない、大空を翔ける風の強大な力。 せつなは、腕が千切れそうになるような痛みに懸命に堪える。 握力も徐々に無くなり、限界を感じた時だった。 「おめでとう、せつな。もういいよね?」 「せつなは立派に一人で揚げきったわ、アタシたちが証人よ!」 「おめでとう、せつなちゃん!」 ラブ、美希、祈里がせつなの持つ糸を一緒に支える。 力負けしなくなった土台に支えられて、大凧は更に大きく飛翔する。 ブ――ン! ブ――ン! ブ――ン! と勇ましい音を鳴らしながら凧は飛び続ける。 後から聞いた話だが、これは風箏(ふうそう)と言って、和凧の特徴であり自慢なんだとか。 パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ あちこちから拍手が巻き起こる。 始めは無理と諦めて去っていった見物人たち。 しかし、せつなはあきらめなかった。その姿に自分を恥じ、こっそりと見守っていたのだ。 大凧を一人で揚げようとしている少女がいる。それが口コミになって、その数は何百人にもなっていた。 そして、その中から一人の老人が歩み寄った。 「よくやったな、お嬢ちゃん。いや、せつなちゃんだったな」 「おじいさま! 見ててくださったんですか!?」 「始めからずっと、この三日間通して見てたぜ。ここまでやるとは思わなかったがな」 「じゃあ、凧を――また、作ってくれますか?」 「ああ、俺にも火が付いちまったしな。最高の凧をこしらえてやる」 「ありがとうございます!」 「やったね、せつなっ!」 「おめでとう、せつな!」 「わたし、信じてた!」 四人、いや、五人が喜びあう中、たくさんの観衆がその周りを囲んでいく。 昔、凧で遊んだ思い出がよみがえった大人たち。 初めて凧が飛ぶ姿を見た小さな子供たち。 本来は男の子の遊びだった。 それを女の子が懸命に頑張って、巨大な凧を揚げた姿に己を恥じたのだろう。 あるいは血沸き、肉踊ったのだろう。 「その凧、僕にも作ってもらえませんか?」 「あっ、ずるい! 僕も!」 「じっちゃん凧作んのか? 俺のも頼むよ!」 「へっ、待ってな。家から山ほど持ってきてやるからな」 涙ぐんで喜ぶクローバーたち。そして、おじいさんの声も涙声だった。 「僕もやろうかな」 「それじゃあ、私も!」 「あらあら、お父さんたちまで」 「男の人って、こういうのに熱くなるのよね~」 「そこがいいんじゃない!」 圭太郎と正、あゆみにレミに尚子までいた。みんな、せつなたちを見守っていたのだ。 お疲れ様って、労いの言葉をかけていった。 「ふん、この街もまだまだ捨てたもんじゃないね」 「なんだ居たのかよ、梅干ばばあ」 「居て悪いかい? 凧じじい」 「ああ……。俺は凧じじいだ」 駄菓子屋のおばあさんも居た。きっと、ずっと見守ってくれていたのだろう。 ダルマのように着こんだ服装がそれを証明していた。 そして、盛大な凧揚げが行われた。 大小さまざまな凧が、ところ狭しと舞い上がる。 工房の無数の凧もすっかり空っぽ。その分、おじいさんの意欲は充実感で満ちていた。 クローバーたちも、思い思いの凧を揚げている。 おじいさんが、今度は小さな凧を揚げているせつなに話しかけた。 「やってるな、せつなちゃん。凧揚げはどうだ?」 「とても楽しいです。普段は見上げるだけの空が、手を繋いでいるみたいに身近に感じられて」 「それが凧揚げの魅力よ。わかってるじゃねえか」 「それに、コツをつかめたように思うんです」 「ふん、そこはわかっちゃいねえな。俺から見ればまだまだよ。見てな!」 おじいさんは手にした凧を顔の高さまで持ち上げる。 そのまま引きもせずに、スッと凧を離す。 落下するよりも先に、軽く手首をしゃくる。そのままスルスルと糸を送っていく。 まるで魔法でも見ているかのようだった。 おじいさんは一歩も動いていない。手も、小さく軽く数回振っただけだ。 それなのに、凧は空に吸い込まれていくかのようにグングンと高度を上げていく。 あっという間にせつなの凧を追い抜いてしまった。 「すご……い! おじいさまは作るだけじゃなくて、揚げるのも名人なのね!」 「当たり前よ! よく知りもしないものを作れるかってんだ!」 自信満々のそのセリフがおかしくて、せつなはクスッっと笑った。 そして、私もそう思いますって、力いっぱい返事した。 よく知らないものは、作ることもできなければ、広めることだってできはしない。 だから、自分はこの街に帰ってきたのだから。 幸せを学ぶために。みんなを笑顔と幸せでいっぱいにするために。その輪を大きく大きく広げていくために。 私――精一杯がんばるわ!
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タン。タン。タン。タン。タン。 小気味良い音が桃園家のキッチンに響き渡る。 牛ロース。豚と鳥のもも。しいたけ。たまねぎ。 冷蔵庫の余りものを上手にチョイスしてひき肉をこしらえる。 「ラブ。このくらいでいいのかしら?」 「うん、バッチリ! 後はパン粉と卵黄を混ぜてこねるの」 ラブはキャベツの芯をくり抜いて細かく刻み、ケチャップ、醤油と混ぜて特性のソースを作っ ている。 おかあさんが特売で春キャベツを買ってきた。刻んでサラダにして今夜はハンバーグ! と言 うラブの提案は、この前したばかりだからとあっさり却下された。 それでロールキャベツを作ることになったのだ。 お揃いのエプロンをつけて、仲睦まじく調理を進めていく。 二人とも真剣。交わす言葉は質問と指示くらい。だけど、互いに見つめあって、微笑みかけて。 娘達の嬉しそうな表情に、あゆみと圭太郎の顔もゆるみっぱなしだ。 「もう、いいの?」 「春キャベツを使う場合はね、煮詰めすぎないようにするのがコツなんだよ」 ハンバーグが得意なラブの、自慢のレパートリーの一つだ。美味しそうな香りが食卓いっぱい に広がる。 ラブが食器を並べて、せつなが可愛らしく盛り付けていく。 おとうさんとおかあさんのグラスに白ワインを注いで完成だ。 「「「「いただきま~す」」」」 「美味しいわ。ラブ、せっちゃん」 「本当だ。春キャベツが甘くていいなあ」 「ほとんどラブの言う通りにしただけよ」 「せつなの手際は凄いんだよ」 途切れない会話。花が咲いたような明るい食卓。 せつなが突然帰って来てから一週間が過ぎようとしていた。幸せを学びたい。そう言った少女 は、たちまち桃園家や周囲の人々を笑顔と幸せでいっぱいにしていった。 「ブロッコリーの茎も、こうして煮ると美味しいなあ」 「人参も美味しいわぁ~。一緒に余り物を煮込むなんて考えたわね」 ぎくっ! ラブがよそ見をして誤魔化そうとする。 「ら~ぶぅ、に ん じ ん。食べないとね! 私も昨日はピーマンの炒め物全部たべたんだから」 「あ、ははは。その~せつな。お願い、食べて……」 「だ~め! はい、あーん」 「いや……その」 「あーん」 せつなにじっと見つめられる。せつなの口もあーんと開いてるなあと思いつつ、ラブは観念し て口を開いた。 「おいひいです」 泣き出しそうなラブの顔を見て、全員が吹き出した。 「せっちゃん。学校はどう? 少し時間が開いちゃったけど、授業とかついていけてる?」 あゆみが心配して声をかける。 食事が終わり、みんなに紅茶を入れながらせつなが答える。 「大丈夫よおかあさん。ちゃんとわかるわ」 「せつなったら凄いんだよ。間違えたとこなんて見たことないし。 スポーツも相変わらず何でも出来るし。クラスでも物凄い人気なんだから!」 頭脳明晰。スポーツ万能。容姿端麗。控えめで礼儀正しく優しい人柄。もとから人気は高かっ た。反面、遠慮がちで自分から交流を持とうとしない子でもあった。 帰ってきてからのせつなは、まるで人が変わったようだった。以前の魅力はそのままに、自ら 話しかけ、積極的に人と関わりを持とうとするようになった。おせっかいな一面も見られるほ どで、学級、学年の外にもファンは急速に増えていった。 「そう、良かった。ラブは勉強とか大丈夫なんでしょうね?」 「いやぁ、あたしは、その……」 「は~しょうがない子ね。せっちゃん」 「はい、まかせて。おかあさん」 あゆみは無言で二階を指差す。今夜のせつなとのおしゃべりは、勉強会に変更になるだろう。 「は~い」とラブはしょぼしょぼと上がっていった。 「ラブっ~! 後片付け済んだら私も行くから」 せつなが声をかけると、今度は元気な声で「早く来てね~」と返事が帰ってきた。 「せっちゃんも上がっていいわよ。片付けはやっておくから」 「ううん。私にやらせて、おかあさん」 「じゃあ、一緒にやりましょう」 「はい」 今度はあゆみと一緒にキッチンで後片付け。せつなが洗った食器を、あゆみは拭きあげて並べ ていく。 時折、チラチラとせつなの方を見る。 「どうしたの? おかあさん」 「あら、やだっ。ごめんなさい。 こうして――またせっちゃんと一緒に過ごせるのが夢のようで、ついね」 「私と暮らせるのが、楽しいの?」 「当たり前でしょ。娘と一緒に居られることが幸せで無い母親なんているものですか」 「ありがとう。おかあさん」 せつなはあゆみにそっともたれかかった。以前より物怖じしなくなった。 あゆみが優しく抱きしめた。 「ねえ、せっちゃん。遠慮も何もいらないから、あなたが思った通りにやりなさい。 そして、何でも相談してちょうだいね。必ず力になるわ」 「そうだぞ、せっちゃん。おとうさんも、せっちゃんの幸せを誰より願ってるんだからな」 おかあさんばかりずるいぞ! と言った目で見ながら圭太郎も会話に混じってきた。 「ありがとう。おとうさん。おかあさん」 せつなはしばらく二人に甘えてから、ラブの部屋へと向かった。 幸せの街、クローバータウン。 そしてきっと、どこよりも温かい幸せな家庭。少なくとも、この家の四人はそう信じられる。 待っててくれる人。迎えてあげたい人。心を優しく満たしてくれる人。 それは家族と言う名の幸せ。 優しい夜は、その日もゆっくりとふけていった。 10-910へ
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「ここが私の部屋、せつなの部屋は本当はとなりなんだけどまだベットがないから今日は一緒に寝よ。」 「あ、ありがとう…」 私がイースじゃなくなったはじめての夜、食事を終えた私はそのまま桃園家の一員として招待された。 今日の食事はいままでの中で一番おいしかった。 とてもじゃないけどラビリンスの食事とは比べ物にならなかった。 ラブを騙すふりして近づいた時に食べたご飯やドーナツもおいしかったけど、 でも今日は完全にイースじゃなくなったからかな?もっとおいしい気がした。 あの頃みたいにただ一人で黙々と栄養を摂取するのとは違う…… あ、でもあえてひとつ言うなら肉の横についてた緑の苦いの…えーっとピーなんとかだっけ? あれだけは苦手だったけど、それさえも私には愛おしかった。 「あ、ごめんなさいね今日は床に布団敷くからそれで寝てもらえるかしら?」 ラブのおばさまがラブの部屋までやってきて布団を敷こうとしてくれる。 見ず知らずの何もかも失った私を受け入れてくれたとても優しい人。 「あ、いいの。今日はせつなと一緒にベットで寝るから。」 「ええ!」 ラブの提案に私は驚いた声を上げる。 い、一緒のベットってそんな… 「あらあらそんな無理言ってせっちゃんを困らせちゃだめよ。」 「ねえ、いいじゃんいいじゃん。せつなー」 そう言って私の手を取る。もうベットに連れ込む気満々だ。 でも私は嫌な感じはまったくしない。何故ならラブのそんな所に惚れたのだから。 「全く、せっちゃんも嫌だったら言えばいいのよ。」 「いえ、嫌だなんてそんな…」 「ほーら、せつなもこう言ってるじゃん。」 「はいはい、じゃあ後は2人で仲良くやるように。ラブが困らせてきた時は私の所に来てね。」 そう言うとおばさまは去って行った。 「じゃあおやすみなさーい。さあせつな一緒に寝るよ。」 「も、もう…」 結局私はラブに手を引かれるまま同じベットで眠りにつく事になったのだった zzzzzzzzzzzzzzzzzzzz 温かい布団に入ってじっくり考え込む。 私はこれまで幾人もの人を不幸にしたにも関わらず幸せゲットしようとしている。 確かに私は管理されて、闘わされて不幸だったのかもしれない。 でも他のラビリンスの人たちはどうなるの? 私はアカルンの力で本来の寿命が尽きてもこうして生きている。 でも今でもラビリンスでは命すら管理されている人たちだっている。 そして私はそれに加担し続けていたはずだ。 それなのに私だけ生き延びてこんな所でこんな…… ウエスターやサウラーは管理体制を信仰させられ今でも終わりの見えない闘いをしているのに…… そう本当の私、みんなを不幸にする存在のイースはあの時、あの森で死ぬべきだったんだ。 なんだったらいまからでもやっぱり…… 「ギュッ」 そんな事を考えているといきなりラブに背中を強めに抓られる。 「痛い痛い!!ちょっと何するのよ、ラブ」 私は抗議の声を上げるがラブは怒ったような顔をして 「せつな、今変な事考えてるよね!」 「そ、そんな事」 私はラブから目をそらして答える。 「嘘ついてもだめ!今のせつなすごく嫌な顔してた。」 いけない顔にでてしまっていたのか。 「命が尽きてもいいなんて言って、本当は幸せになりたいのを無視して、自分を傷つけようとしてた時と同じ目をしていた。」 「ラブ…」 本当にラブには何もかもお見通しの様だ。 「そんな事を考えようとするせつなには……こうだ!」 ラブはそう言って私の体をこちょこちょとくすぐりだす。 「キャッ、ちょっとラブってば何するのよー」 「さあ、笑え笑えー今夜はせつなが変な事考えられなくなるまで笑わせるんだからー。」 笑わせるって言ってもこんな強引な手で? 「ちょっと、本当に、本当に、きゃ、あはははー」 ラブの強引なくすぐりに気付いたら私は何も考えずに笑っていた。 「分かった、ラブにはもう負けたから、止め…きゃははは」 「だーめ、これは私の大好きなせつなに対して変な事考えたせつな自身へのお仕置きも含んでるの。」 「そんな、ね、ねえ…キャハ、もう許してってばー」 「ダーメ」 「ってそこはお尻……ちょっとそんなところまでくすぐらないでよー」 「今のせつなにはこれくらいの荒治療が必要なの。」 そんな訳判んない理屈で人の体、しかもお尻をくすぐるなんて…よーしこっちにも考えがあるんだから。 「こらラブ、いい加減にしなさい。」 そう言って私は逆にラブの体を逆にくすぐり始めた 「キャハハ、やったなーせつなめ、私だって負けないんだからー」 結局その日は一晩中くすぐりあいっこだった。 でもこうしていると一人でマイナスな事ばかり考えていた自分がアホらしくなってくる。 ラブにはこういう不思議な力があるから一緒にいて飽きない。 でもこういう大切な人とふざけて全てを忘れる時間が幸せなのかな? 私にはまだ幸せの形が分からない。 でも今日私をくすぐったお返しにラブにたっぷり教えてもらっちゃお。
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翼をもがれた鳥 第9話――ただ一度きりの飛翔―― せつなとの出会い。 せつなとの時間。 せつなの声。せつなのしぐさ。 せつなの笑顔。そして、せつなの……涙。 そういえば、ちゃんと考えたことなかったよ。 どうして、あたしはプリキュアになったのかってこと。 みんなで幸せをゲットしたかった。ただ、その想いだけだった。 せっかく生まれてきたんだもの。あたしは幸せになりたかった。 せっかくみんなと出会えたんだもの。みんなにも幸せになってほしかった。 でも、今、はっきりとした目的ができた。 あたしが何よりも望んでいるもの。 どうしても手にしたいもの。 この出会いは、決して偶然なんかじゃないから。 ありがとう、ピルン。あたしをプリキュアに選んでくれて。 待っててね、せつな。何も心配しなくていいからね。あたしが……。あたしが必ずなんとかするから! 『翼をもがれた鳥――ただ一度きりの飛翔――』 全ての、始まりの場所。 道に迷ったラブが、運命の糸に手繰り寄せられるように立ち寄った場所。 占いの館。もう――その姿は見えないけれど。 あの時は、せつなが迷ったラブを導いてくれた。 今度は自分の番だと思った。 出口のない迷宮に囚われたせつなを救い出す。 (あたしの――全てを賭けて!) 心の整理がついた。不安もある。未練もある。心残りもある。 でも、それらを乗り越えて、果たしたい願いがあるからここに来た。 キュアピーチの瞳が大きく開かれる。 「ウエスター! サウラー! 見ているんでしょ、話したいことがあるの!」 ほどなくして空間が歪み、扉が開かれる。 先にウエスターが、そして、けだるい表情でサウラーも姿を見せた。 殺気を纏うウエスターとは対照的に、つまらなさそうにピーチを眺めるサウラー。 彼はピーチの様子から、戦いに来たわけではないことを見抜いていた。 「昨日の焼き直しのつもりか? 今度は返り討ちにしてやろう」 「待つんだ。キュアピーチは話したいと言っていたよ」 「先に聞いておきたいことがあるの。あなたたちも寿命を管理されているの?」 「当然だ! ラビリンスの国民は皆そうだ。全てはメビウス様のために存在するのだからな」 「そういう事だね。まわりくどい話は御免だ、君が聞きたいのはイースのことだろう?」 「お願い、せつなの寿命管理を解いてほしいの」 「ふざけるな! そんなことができると思っているのか」 「管理はクラインが行っている。その判断を下すのはメビウス様だ。僕らの意思の及ぶところじゃない」 「うん、わかってる。なら――メビウスに会わせて!」 「お前、意味がわかって言ってるのか?」 「いいだろう、約束はできないが手配はしてみよう。ただし、変身解除とアイテムをここに残していくのが条件だ」 「……持ってこいと、言われると思うんだけど」 「その手には乗らないよ、必要なら後で回収する。僕らには触れられないらしいからね」 しばらくの間逡巡する。断れば、ここで戦いになるだろう。二対一で……。 勝敗は問題ではない、それでは目的が果たせないのだ。 ピーチは変身を解除して、リンクルンを地面に置いた。 「――これで、いいんだね」 「付いて来たまえ」 サウラーは、確認もせずに背を向けて館への扉を開いた。ウエスターが一度だけ振り返り、同じく歩を進める。 ラブは硬く拳を握り締め、後に続いた。 主を失ったリンクルンに、細く白い手が伸びる。 一足遅かった。駆けつけたイースが目にしたのは、争った跡すらない草むらに残された、変身アイテムだけ。 恐る恐る手を伸ばす。前回触れた時は、激しい光とともに雷に打たれたような衝撃が襲った。 だけど、放っておくことはできない。これは――ラブにとって大切なもの。 触れた瞬間に光り、軽い痛みが走る。しかし、その後は静かにイースの手に収まった。 「ありがとう、しばらく我慢してね」 懐に大切に入れて、館への扉を開く。住み慣れた家に戻るだけなのに、緊張で体が震える。 恐怖ではない。もとより保身に興味もなければ意味もない。 ただ、上手くやらなくてはならない。 ラブを救い出すだけでは足りないのだ。ここに来た目的――ラブの笑顔と幸せを守ること。 それを妨げるものを、排除しなければならない。 そのうちの一つが自分自身の命。そして、自分がこれまで集めてきたもの。 (急がなければ……) ラブが本国に送られてしまったら、もう手の打ちようがない。ウエスターとサウラーが付きっきりになっている今がチャンス! イースは館の地下を目指して走りだした。まずはコントロールルームから。警備カメラの映像を、録画画像に差し替えて無力化する。 転移装置を破壊して、送還を止める。 口元にわずかに笑みが漏れる。謀反が知れればそこまで。後、どのくらい生きられるかわからない。ラブのことも心配だった。 そんな状況の中でも、少しだけ楽しいと感じる自分がいた。 ほんの数日前まで、最も忠実なしもべを自称していたイースが反逆を企てている。 命令でもなく、任務でもない。自分自身の望みに従って判断し、自分だけの目的のために行動する。生まれて初めて手にした自由。 それが――楽しいと思った。たとえ、一瞬の輝きであったとしても。 目的の部屋に到着する。無数の機器に囲まれた一室。 光点の一つ一つが超空間回線であり、特殊な計器であり、優れたコンピューターでもある。 そのうちの一つに触れる。画面が開き、キーボードが現れる。 並みの者では使いこなせない煩雑な操作。しかし、イースはその扱いに幹部の誰よりも長けていた。 力でウエスターに劣り、頭脳でサウラーに劣る彼女が、幹部に選ばれた理由。 高い適応能力と記憶力。一度見ただけで、その技術を自らの力とする能力がイースにはあった。 監視モニターカット。 転移装置、電力ダウン。 異空間通信装置、ジャミング起動。 館の座標軸修正、館の隠蔽モード解除。 不幸のゲージ、自爆時限装置起動。 ERROR ERROR ERROR ならば―― 不幸のエネルギー供給装置爆破。 ERROR ERROR ERROR そして、画面がエラーの文字で埋め尽くされる。全ての操作を受け付けなくなる。 部屋が赤く点滅し、非常警報が鳴り響く。 「くっ、失敗したというのかっ! 次は無いというのに――」 プロテクト解除の手順は完璧だったはず。あらかじめ、このような事態を予測したプログラムを組んであったとしか思えない。 拳を叩きつけて、操作していた端末を破壊する。 もう――一刻の猶予も無かった。後は時間との戦い。 イースは不幸のゲージの間へと急いだ。 占い館の前。焦りの表情を隠そうともしない、ベリーとパインが立ちすくんでいた。 必死になって入り口を探すが、それらしきものは見当たらない。 大声を張り上げもした。威嚇の技を放ちもした。しかし、どれも反応を得ることはできなかった。 「キュアスティックなら破れないかな?」 「駄目だと思う。イースが通常の手段では干渉できないと言ってたわ」 「シフォンちゃんに来てもらえば、もしかしたら何とかなったかもしれないね」 「うん――ゴメン。アタシの判断ミスだった。先にラブの家に寄るべきだったわね」 「ベリーのせいじゃない。シフォンちゃんを危険に巻き込みたくなかったんでしょ」 「そうだけど……。アタシ行って来る!」 「待って! なんだか様子がおかしい」 周囲の木々が大きく揺れ動く。地響きをあげながら巨大な建築物が具現化する。 一瞬後には、始めからそこにあったかのように、占い館がその姿を取り戻していた。 「出入りなら、空間の扉を開けばいいはず。一体、何が起こっているの?」 「とにかく急ごう! ベリー」 ベリーとパインは、館の扉を開いて飛び込んだ。 入って直ぐの昇りの階段。その後ろに、隠れるように配置されている降りの階段。 どちらに行けばいいのか? 迷いが焦りを呼ぶ。この選択のミスが致命的な遅れを招くかもしれない。 「どうしよう、ベリー」 「下に行くわよ。大切な物や場所は地下に設置するはず、その方が安全だから!」 パインは力強く頷いた。同じ意見であったのだろう。二人は地下へと降りていく。 いくらも進まないうちに警報が鳴り響く。 自分たちの進入が見つかったのだろうか? しかし、館をわざわざ出現させておきながら警報もおかしな話だった。 もともと隠密行動できるなんて期待していたわけでもない。成すべきことは同じ! 二人は更に足を速めて下層へと急いだ。 黙々と、地下への階段を降り続けるサウラーとウエスター。少し遅れてラブが続く。 拘束も何もされていない。しかし、そこに自由があるわけではない。 彼らの力は常人の数千倍もあり、プリキュアすら肉弾戦だけなら凌ぐほどだ。変身を解除し、リンクルンを失ったラブは普通の十四歳の女の子にすぎない。 彼らの視界に納まっている以上、囚われているに等しかった。 一歩階段を下るごとに恐怖が募る。どこに連れて行かれるのか。 いや、それはわかっている。ラビリンス本国、メビウスの元だ。それは自分自身で望んだこと。 せめて、リンクルンが腰にあればと思う。そうすれば、こんなに不安に心を塗りつぶされることは無かったろう。例え、戦力差が絶望的であったとしても。 言っても仕方ないことだった。自分の見通しが甘かっただけ。感情にまかせて、飛び込むように来てしまった。 こんな時、いつも美希が叱ってくれたのにと思う。祈里が心配して、引きとめてくれたのにと思う。 そんな二人を突き放したのも自分自身。 二人とも、自分のことが心配で仕方なかっただけなのに。 心配してくれる人がいることは幸せなんだって、わかっていたはずなのに。 (せつな……) 心の中で、そっと名前をつぶやく。それだけで心が温かくなった。勇気が湧いてくるような気がした。 そうだ――もともと力で押せるような状況じゃないのはわかっていたこと。 それでも助けたかった。生きていてほしい人がいた。だから――ここに来たのだから。 しっかりしなきゃ! と自分に言い聞かせる。まだ、何も始まってすらいないのだから。 メビウスと対峙して、せつなの寿命管理を解かせなくてはならない。 説得が通じる相手とも思えない。何か交換条件が必要となるだろう。 もうプリキュアにすらなれない以上、それがどのようなものであっても呑むつもりだった。 (美希たん、ブッキー、ごめん。後のことはお願いね) 目的の場所に着いたのか、サウラーの足が止まる。 そこは大きな部屋だった。中央の巨大な装置に、円形の台座が備え付けられている。その周囲を、またいくつもの計器類が取り囲む。 科学の知識なんてないけれど、なんとなくそれが転移装置なんだろうと思った。 サウラーがパネルらしきものを開き、誰かと通信し始めた。 「お久しぶりですね、サウラー。どうかなさいましたか」 「クライン、イースのことは承知しているんだろう?」 「ええ、あなた方の報告には目を通しています。それ以上のことも調べていますよ」 「ならば話は早い。プリキュアのリーダー、キュアピーチを確保した。メビウス様に会いたいそうだ」 「お会いするかはメビウス様がお決めになられること。ご報告はしておきましょう。あなた方はキュアピーチを護送してください」 「そのつもりだ。今からそちらに向か――」 突然、映像が乱れる。通信回線がノイズとともに遮断される。そして―― 「変だな、転移装置が動かないぞ。おい! サウラー、どうなっているんだ」 「それはこちらのセリフだ。また叩いて壊したんじゃないだろうね?」 地震のような揺れを感じる。そして、非常警報が鳴り響く。 これは第一種警戒体制。つまり直接建物内に何者かが入り込み、攻撃を加えていることを意味していた。 もちろん、ウエスターとサウラーにとっても初めてのことだ。 「一体、何が起こっているのだ!?」 「君も少しは手伝ったらどうだ! 館の隠蔽モードが解除されている。プリキュアの仕業かもしれない」 「どうして中に入れたんだ!?」 「それを今調べている。――だめだ、モニターには何も映っていない」 戦闘体制と言っても、他に戦闘員がいるわけではない。館に迎撃用の装備があるわけでもなかった。 危険を知らせるためのものに過ぎない。 高すぎる潜伏能力。隠蔽モードがあるがゆえに、一度内部に潜入されると脆い構造になっていた。 サウラーは侵入者の位置を探ろうと、ウエスターは通信装置と転移装置を回復させようと躍起になる。 しかし、どのような手段でロックがかけてあるのか、それぞれの機能は全く操作を受け付けなくなっていた。 唯一、転移装置だけは電力供給を切られているだけだった。もともとこの装置は、その性質上遠隔操作を受けないように作られている。 手動で再接続する。あと、数分で使用可能になりそうだった。 混乱しているのはラブも同じだった。何が起こっているのか? プリキュアの仕業かもしれないとサウラーが言っていた。一瞬喜び、すぐに不安に変わる。 それではダメなんだ。襲撃でいいなら、ラブは一人で来たりはしていない。 ここで実力行使に出たら、せつなが―― もう、せつなを救う手段がなくなってしまう。必ず――なんとかするって約束したのに! 決意してここにやってきた。何が起きても、せつなだけは助けるって誓いを立てた。 なのに何一つ思い通りにならず、成す術もなく成り行きに身を任せるしかないなんて―― ここに来た時の自信が音を立てて崩れていく。 プリキュアの力に甘えて、なんでもできる気になっていた。本当の自分は、無力な中学生の女の子に過ぎないことも忘れて。 絶望の淵でせつなの救済を祈るラブの前に、黒い人影が歩み寄ってきた。 ラビリンス四大幹部の一角、イース。この館の主の一人。本来居てしかるべき人物の到来に、一同が凍りつく。 その表情は自然体で、何の感情も映していない。数日前まで彼女の心を支配していた焦燥感も感じられなかった。 「なにやら騒がしいわね。そこをどいて。お前がやっていたのでは日が暮れるわ」 「イース……。無事だったのか!」 「いつ……戻ったんだい、イース」 「せつ……な? どうして……ここに……」 「もう平気よ。今帰ったばかり」 喜びを露わにするウエスターと、怪訝な表情を浮かべるサウラー。そして、驚愕に目を見開くラブ。 イースはラブには応えず、一瞥もくれず、ウエスターを押しのけるように転移装置に近づく。 そして、メインコントロールパネルに拳を振り上げて――叩きつけた! 「イース! 何をするっ!」 「気でも触れたのかい? イース」 「せつなっ?」 「なんとでも言うがいいわ。これでもう、当分はラビリンスへの行き来はできなくなった」 「なるほど、一連のトラブルは君の仕業というわけだね」 「イース、お前は自分のやっていることがわかっているのか?」 「ラブ、私はあなたに伝えていない想いがあったの。ありがとう――あなたと出会えて、楽しかった」 イースはラブと向かいあい、優しく微笑んだ。氷のようなイースの表情に、花が咲いていくように柔らかな感情が宿る。 それは嬉しそうな笑顔――でも、やっぱり、儚げで寂しそうな笑顔だった。 ようやく事情が飲み込めて、怒りの表情を浮かべるウエスター。そして、サウラーは警戒しつつイースとラブの間に割って入る。 ラブの瞳に涙が溢れる。その言葉は嬉しかった。気持ちが通じたのは嬉しかった。 でも、それはあきらめの言葉。そして、お別れの言葉だった。 そこに聞こえてくる足音。新たなる来訪者。キュアベリーとキュアパインが扉を叩き破って現れた。 「ラブっ! 無事?」 「ラブちゃん、助けに来たよ!」 これで、三対二。分の悪くなったのを察して、サウラーがラブを拘束する。プライドの高い彼にとって、それは屈辱的な行為だった。 普段なら撤退を選んでいただろう。しかし、ここは本拠地。大切な不幸のゲージの保管場所。それも許されなかった。 展開に付いていけないウエスターとラブ。しかし、イースに動揺はなかった。館を戻し、ベリーとパインを呼び込んだのも彼女だった。 不敵に笑うと、右手に収まる小さな機械を掲げた。 「全員動くな! 不幸のゲージの間と道中に爆弾を仕掛けてきた。この意味、おまえたちならわかるはずよ」 「よせっ! そんなことをしたら」 「本気で反逆するつもりのようだね。その命、もう長くないと思うよ」 「そうね、でもスイッチを押す時間くらいはあるわ。サウラー、ラブを離して! ベリーとパインは、ラブを連れてここから脱出して」 「せつなっ……あなた……」 「せつなさん!」 「ダメだよ、せつな。それじゃせつなが!」 「そうはいきませんよ、イース」 突如空間が歪み、初老の男が出現する。痩せ型で神経質そうな顔。どう見ても武官ではなく、文官のような印象だった。 空間に浮いたまま近づいてくる。 「サウラー、あなたはその娘を転移装置に乗せてください。座標は本国から誘導します」 「ラブっ! そうはさせない!」 「ラブちゃん!」 「動けばその娘がどうなるかわかりませんよ。生身の人間など、この場の者なら撫でただけで首が折れます」 「よせ! クライン。このスイッチが見えないのか!」 「イース、あなたには失望しました。メビウス様の命により、あなたの寿命を今日ここまでとします」 クラインが空間から出現させたキーボードを弾く。死を告げるコマンドが入力される。 イースの体に深く刻み込まれた“強制”が発動する。――生命活動停止の指令が脳に送信され、全身に伝達される。 イースは声を上げることもなく、突然崩れ落ちた。糸の切れた、操り人形のように―― 当然、予測されたことだった。少なくとも、ウエスターとサウラーには。そんな彼らにすら、あまりにも唐突な別れだった。 クラインの宣言。そして、動かなくなったイース。しばらくしてから、ようやくラブたちにも状況が理解できた。 突然で、乱暴で、理不尽で、とても受け入れられない現実。ラブの心を満たすのは、悲しみではなく否定の感情だけ。 「せつ……な? せつな……せつな……。いやぁぁぁあああ!!」 「せつなさん……」 「クッ……なんてことを。あなたたちは仲間じゃないの?」 倒れたイースをつまらなさそうに眺めてから、クラインは地面に降り立った。 ベリーの問いかけには答えず、そのままラブの方に歩み寄ろうとする。 そして、突然後ろを振り返った。その目が驚愕に見開かれる。 彼の視線の先にある異変。 死んだはずのイースの体が――小刻みに震えていた。 第10話 翼をもがれた鳥――よみがえる白き翼――へ続く