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翼をもがれた鳥 第9話――ただ一度きりの飛翔―― せつなとの出会い。 せつなとの時間。 せつなの声。せつなのしぐさ。 せつなの笑顔。そして、せつなの……涙。 そういえば、ちゃんと考えたことなかったよ。 どうして、あたしはプリキュアになったのかってこと。 みんなで幸せをゲットしたかった。ただ、その想いだけだった。 せっかく生まれてきたんだもの。あたしは幸せになりたかった。 せっかくみんなと出会えたんだもの。みんなにも幸せになってほしかった。 でも、今、はっきりとした目的ができた。 あたしが何よりも望んでいるもの。 どうしても手にしたいもの。 この出会いは、決して偶然なんかじゃないから。 ありがとう、ピルン。あたしをプリキュアに選んでくれて。 待っててね、せつな。何も心配しなくていいからね。あたしが……。あたしが必ずなんとかするから! 『翼をもがれた鳥――ただ一度きりの飛翔――』 全ての、始まりの場所。 道に迷ったラブが、運命の糸に手繰り寄せられるように立ち寄った場所。 占いの館。もう――その姿は見えないけれど。 あの時は、せつなが迷ったラブを導いてくれた。 今度は自分の番だと思った。 出口のない迷宮に囚われたせつなを救い出す。 (あたしの――全てを賭けて!) 心の整理がついた。不安もある。未練もある。心残りもある。 でも、それらを乗り越えて、果たしたい願いがあるからここに来た。 キュアピーチの瞳が大きく開かれる。 「ウエスター! サウラー! 見ているんでしょ、話したいことがあるの!」 ほどなくして空間が歪み、扉が開かれる。 先にウエスターが、そして、けだるい表情でサウラーも姿を見せた。 殺気を纏うウエスターとは対照的に、つまらなさそうにピーチを眺めるサウラー。 彼はピーチの様子から、戦いに来たわけではないことを見抜いていた。 「昨日の焼き直しのつもりか? 今度は返り討ちにしてやろう」 「待つんだ。キュアピーチは話したいと言っていたよ」 「先に聞いておきたいことがあるの。あなたたちも寿命を管理されているの?」 「当然だ! ラビリンスの国民は皆そうだ。全てはメビウス様のために存在するのだからな」 「そういう事だね。まわりくどい話は御免だ、君が聞きたいのはイースのことだろう?」 「お願い、せつなの寿命管理を解いてほしいの」 「ふざけるな! そんなことができると思っているのか」 「管理はクラインが行っている。その判断を下すのはメビウス様だ。僕らの意思の及ぶところじゃない」 「うん、わかってる。なら――メビウスに会わせて!」 「お前、意味がわかって言ってるのか?」 「いいだろう、約束はできないが手配はしてみよう。ただし、変身解除とアイテムをここに残していくのが条件だ」 「……持ってこいと、言われると思うんだけど」 「その手には乗らないよ、必要なら後で回収する。僕らには触れられないらしいからね」 しばらくの間逡巡する。断れば、ここで戦いになるだろう。二対一で……。 勝敗は問題ではない、それでは目的が果たせないのだ。 ピーチは変身を解除して、リンクルンを地面に置いた。 「――これで、いいんだね」 「付いて来たまえ」 サウラーは、確認もせずに背を向けて館への扉を開いた。ウエスターが一度だけ振り返り、同じく歩を進める。 ラブは硬く拳を握り締め、後に続いた。 主を失ったリンクルンに、細く白い手が伸びる。 一足遅かった。駆けつけたイースが目にしたのは、争った跡すらない草むらに残された、変身アイテムだけ。 恐る恐る手を伸ばす。前回触れた時は、激しい光とともに雷に打たれたような衝撃が襲った。 だけど、放っておくことはできない。これは――ラブにとって大切なもの。 触れた瞬間に光り、軽い痛みが走る。しかし、その後は静かにイースの手に収まった。 「ありがとう、しばらく我慢してね」 懐に大切に入れて、館への扉を開く。住み慣れた家に戻るだけなのに、緊張で体が震える。 恐怖ではない。もとより保身に興味もなければ意味もない。 ただ、上手くやらなくてはならない。 ラブを救い出すだけでは足りないのだ。ここに来た目的――ラブの笑顔と幸せを守ること。 それを妨げるものを、排除しなければならない。 そのうちの一つが自分自身の命。そして、自分がこれまで集めてきたもの。 (急がなければ……) ラブが本国に送られてしまったら、もう手の打ちようがない。ウエスターとサウラーが付きっきりになっている今がチャンス! イースは館の地下を目指して走りだした。まずはコントロールルームから。警備カメラの映像を、録画画像に差し替えて無力化する。 転移装置を破壊して、送還を止める。 口元にわずかに笑みが漏れる。謀反が知れればそこまで。後、どのくらい生きられるかわからない。ラブのことも心配だった。 そんな状況の中でも、少しだけ楽しいと感じる自分がいた。 ほんの数日前まで、最も忠実なしもべを自称していたイースが反逆を企てている。 命令でもなく、任務でもない。自分自身の望みに従って判断し、自分だけの目的のために行動する。生まれて初めて手にした自由。 それが――楽しいと思った。たとえ、一瞬の輝きであったとしても。 目的の部屋に到着する。無数の機器に囲まれた一室。 光点の一つ一つが超空間回線であり、特殊な計器であり、優れたコンピューターでもある。 そのうちの一つに触れる。画面が開き、キーボードが現れる。 並みの者では使いこなせない煩雑な操作。しかし、イースはその扱いに幹部の誰よりも長けていた。 力でウエスターに劣り、頭脳でサウラーに劣る彼女が、幹部に選ばれた理由。 高い適応能力と記憶力。一度見ただけで、その技術を自らの力とする能力がイースにはあった。 監視モニターカット。 転移装置、電力ダウン。 異空間通信装置、ジャミング起動。 館の座標軸修正、館の隠蔽モード解除。 不幸のゲージ、自爆時限装置起動。 ERROR ERROR ERROR ならば―― 不幸のエネルギー供給装置爆破。 ERROR ERROR ERROR そして、画面がエラーの文字で埋め尽くされる。全ての操作を受け付けなくなる。 部屋が赤く点滅し、非常警報が鳴り響く。 「くっ、失敗したというのかっ! 次は無いというのに――」 プロテクト解除の手順は完璧だったはず。あらかじめ、このような事態を予測したプログラムを組んであったとしか思えない。 拳を叩きつけて、操作していた端末を破壊する。 もう――一刻の猶予も無かった。後は時間との戦い。 イースは不幸のゲージの間へと急いだ。 占い館の前。焦りの表情を隠そうともしない、ベリーとパインが立ちすくんでいた。 必死になって入り口を探すが、それらしきものは見当たらない。 大声を張り上げもした。威嚇の技を放ちもした。しかし、どれも反応を得ることはできなかった。 「キュアスティックなら破れないかな?」 「駄目だと思う。イースが通常の手段では干渉できないと言ってたわ」 「シフォンちゃんに来てもらえば、もしかしたら何とかなったかもしれないね」 「うん――ゴメン。アタシの判断ミスだった。先にラブの家に寄るべきだったわね」 「ベリーのせいじゃない。シフォンちゃんを危険に巻き込みたくなかったんでしょ」 「そうだけど……。アタシ行って来る!」 「待って! なんだか様子がおかしい」 周囲の木々が大きく揺れ動く。地響きをあげながら巨大な建築物が具現化する。 一瞬後には、始めからそこにあったかのように、占い館がその姿を取り戻していた。 「出入りなら、空間の扉を開けばいいはず。一体、何が起こっているの?」 「とにかく急ごう! ベリー」 ベリーとパインは、館の扉を開いて飛び込んだ。 入って直ぐの昇りの階段。その後ろに、隠れるように配置されている降りの階段。 どちらに行けばいいのか? 迷いが焦りを呼ぶ。この選択のミスが致命的な遅れを招くかもしれない。 「どうしよう、ベリー」 「下に行くわよ。大切な物や場所は地下に設置するはず、その方が安全だから!」 パインは力強く頷いた。同じ意見であったのだろう。二人は地下へと降りていく。 いくらも進まないうちに警報が鳴り響く。 自分たちの進入が見つかったのだろうか? しかし、館をわざわざ出現させておきながら警報もおかしな話だった。 もともと隠密行動できるなんて期待していたわけでもない。成すべきことは同じ! 二人は更に足を速めて下層へと急いだ。 黙々と、地下への階段を降り続けるサウラーとウエスター。少し遅れてラブが続く。 拘束も何もされていない。しかし、そこに自由があるわけではない。 彼らの力は常人の数千倍もあり、プリキュアすら肉弾戦だけなら凌ぐほどだ。変身を解除し、リンクルンを失ったラブは普通の十四歳の女の子にすぎない。 彼らの視界に納まっている以上、囚われているに等しかった。 一歩階段を下るごとに恐怖が募る。どこに連れて行かれるのか。 いや、それはわかっている。ラビリンス本国、メビウスの元だ。それは自分自身で望んだこと。 せめて、リンクルンが腰にあればと思う。そうすれば、こんなに不安に心を塗りつぶされることは無かったろう。例え、戦力差が絶望的であったとしても。 言っても仕方ないことだった。自分の見通しが甘かっただけ。感情にまかせて、飛び込むように来てしまった。 こんな時、いつも美希が叱ってくれたのにと思う。祈里が心配して、引きとめてくれたのにと思う。 そんな二人を突き放したのも自分自身。 二人とも、自分のことが心配で仕方なかっただけなのに。 心配してくれる人がいることは幸せなんだって、わかっていたはずなのに。 (せつな……) 心の中で、そっと名前をつぶやく。それだけで心が温かくなった。勇気が湧いてくるような気がした。 そうだ――もともと力で押せるような状況じゃないのはわかっていたこと。 それでも助けたかった。生きていてほしい人がいた。だから――ここに来たのだから。 しっかりしなきゃ! と自分に言い聞かせる。まだ、何も始まってすらいないのだから。 メビウスと対峙して、せつなの寿命管理を解かせなくてはならない。 説得が通じる相手とも思えない。何か交換条件が必要となるだろう。 もうプリキュアにすらなれない以上、それがどのようなものであっても呑むつもりだった。 (美希たん、ブッキー、ごめん。後のことはお願いね) 目的の場所に着いたのか、サウラーの足が止まる。 そこは大きな部屋だった。中央の巨大な装置に、円形の台座が備え付けられている。その周囲を、またいくつもの計器類が取り囲む。 科学の知識なんてないけれど、なんとなくそれが転移装置なんだろうと思った。 サウラーがパネルらしきものを開き、誰かと通信し始めた。 「お久しぶりですね、サウラー。どうかなさいましたか」 「クライン、イースのことは承知しているんだろう?」 「ええ、あなた方の報告には目を通しています。それ以上のことも調べていますよ」 「ならば話は早い。プリキュアのリーダー、キュアピーチを確保した。メビウス様に会いたいそうだ」 「お会いするかはメビウス様がお決めになられること。ご報告はしておきましょう。あなた方はキュアピーチを護送してください」 「そのつもりだ。今からそちらに向か――」 突然、映像が乱れる。通信回線がノイズとともに遮断される。そして―― 「変だな、転移装置が動かないぞ。おい! サウラー、どうなっているんだ」 「それはこちらのセリフだ。また叩いて壊したんじゃないだろうね?」 地震のような揺れを感じる。そして、非常警報が鳴り響く。 これは第一種警戒体制。つまり直接建物内に何者かが入り込み、攻撃を加えていることを意味していた。 もちろん、ウエスターとサウラーにとっても初めてのことだ。 「一体、何が起こっているのだ!?」 「君も少しは手伝ったらどうだ! 館の隠蔽モードが解除されている。プリキュアの仕業かもしれない」 「どうして中に入れたんだ!?」 「それを今調べている。――だめだ、モニターには何も映っていない」 戦闘体制と言っても、他に戦闘員がいるわけではない。館に迎撃用の装備があるわけでもなかった。 危険を知らせるためのものに過ぎない。 高すぎる潜伏能力。隠蔽モードがあるがゆえに、一度内部に潜入されると脆い構造になっていた。 サウラーは侵入者の位置を探ろうと、ウエスターは通信装置と転移装置を回復させようと躍起になる。 しかし、どのような手段でロックがかけてあるのか、それぞれの機能は全く操作を受け付けなくなっていた。 唯一、転移装置だけは電力供給を切られているだけだった。もともとこの装置は、その性質上遠隔操作を受けないように作られている。 手動で再接続する。あと、数分で使用可能になりそうだった。 混乱しているのはラブも同じだった。何が起こっているのか? プリキュアの仕業かもしれないとサウラーが言っていた。一瞬喜び、すぐに不安に変わる。 それではダメなんだ。襲撃でいいなら、ラブは一人で来たりはしていない。 ここで実力行使に出たら、せつなが―― もう、せつなを救う手段がなくなってしまう。必ず――なんとかするって約束したのに! 決意してここにやってきた。何が起きても、せつなだけは助けるって誓いを立てた。 なのに何一つ思い通りにならず、成す術もなく成り行きに身を任せるしかないなんて―― ここに来た時の自信が音を立てて崩れていく。 プリキュアの力に甘えて、なんでもできる気になっていた。本当の自分は、無力な中学生の女の子に過ぎないことも忘れて。 絶望の淵でせつなの救済を祈るラブの前に、黒い人影が歩み寄ってきた。 ラビリンス四大幹部の一角、イース。この館の主の一人。本来居てしかるべき人物の到来に、一同が凍りつく。 その表情は自然体で、何の感情も映していない。数日前まで彼女の心を支配していた焦燥感も感じられなかった。 「なにやら騒がしいわね。そこをどいて。お前がやっていたのでは日が暮れるわ」 「イース……。無事だったのか!」 「いつ……戻ったんだい、イース」 「せつ……な? どうして……ここに……」 「もう平気よ。今帰ったばかり」 喜びを露わにするウエスターと、怪訝な表情を浮かべるサウラー。そして、驚愕に目を見開くラブ。 イースはラブには応えず、一瞥もくれず、ウエスターを押しのけるように転移装置に近づく。 そして、メインコントロールパネルに拳を振り上げて――叩きつけた! 「イース! 何をするっ!」 「気でも触れたのかい? イース」 「せつなっ?」 「なんとでも言うがいいわ。これでもう、当分はラビリンスへの行き来はできなくなった」 「なるほど、一連のトラブルは君の仕業というわけだね」 「イース、お前は自分のやっていることがわかっているのか?」 「ラブ、私はあなたに伝えていない想いがあったの。ありがとう――あなたと出会えて、楽しかった」 イースはラブと向かいあい、優しく微笑んだ。氷のようなイースの表情に、花が咲いていくように柔らかな感情が宿る。 それは嬉しそうな笑顔――でも、やっぱり、儚げで寂しそうな笑顔だった。 ようやく事情が飲み込めて、怒りの表情を浮かべるウエスター。そして、サウラーは警戒しつつイースとラブの間に割って入る。 ラブの瞳に涙が溢れる。その言葉は嬉しかった。気持ちが通じたのは嬉しかった。 でも、それはあきらめの言葉。そして、お別れの言葉だった。 そこに聞こえてくる足音。新たなる来訪者。キュアベリーとキュアパインが扉を叩き破って現れた。 「ラブっ! 無事?」 「ラブちゃん、助けに来たよ!」 これで、三対二。分の悪くなったのを察して、サウラーがラブを拘束する。プライドの高い彼にとって、それは屈辱的な行為だった。 普段なら撤退を選んでいただろう。しかし、ここは本拠地。大切な不幸のゲージの保管場所。それも許されなかった。 展開に付いていけないウエスターとラブ。しかし、イースに動揺はなかった。館を戻し、ベリーとパインを呼び込んだのも彼女だった。 不敵に笑うと、右手に収まる小さな機械を掲げた。 「全員動くな! 不幸のゲージの間と道中に爆弾を仕掛けてきた。この意味、おまえたちならわかるはずよ」 「よせっ! そんなことをしたら」 「本気で反逆するつもりのようだね。その命、もう長くないと思うよ」 「そうね、でもスイッチを押す時間くらいはあるわ。サウラー、ラブを離して! ベリーとパインは、ラブを連れてここから脱出して」 「せつなっ……あなた……」 「せつなさん!」 「ダメだよ、せつな。それじゃせつなが!」 「そうはいきませんよ、イース」 突如空間が歪み、初老の男が出現する。痩せ型で神経質そうな顔。どう見ても武官ではなく、文官のような印象だった。 空間に浮いたまま近づいてくる。 「サウラー、あなたはその娘を転移装置に乗せてください。座標は本国から誘導します」 「ラブっ! そうはさせない!」 「ラブちゃん!」 「動けばその娘がどうなるかわかりませんよ。生身の人間など、この場の者なら撫でただけで首が折れます」 「よせ! クライン。このスイッチが見えないのか!」 「イース、あなたには失望しました。メビウス様の命により、あなたの寿命を今日ここまでとします」 クラインが空間から出現させたキーボードを弾く。死を告げるコマンドが入力される。 イースの体に深く刻み込まれた“強制”が発動する。――生命活動停止の指令が脳に送信され、全身に伝達される。 イースは声を上げることもなく、突然崩れ落ちた。糸の切れた、操り人形のように―― 当然、予測されたことだった。少なくとも、ウエスターとサウラーには。そんな彼らにすら、あまりにも唐突な別れだった。 クラインの宣言。そして、動かなくなったイース。しばらくしてから、ようやくラブたちにも状況が理解できた。 突然で、乱暴で、理不尽で、とても受け入れられない現実。ラブの心を満たすのは、悲しみではなく否定の感情だけ。 「せつ……な? せつな……せつな……。いやぁぁぁあああ!!」 「せつなさん……」 「クッ……なんてことを。あなたたちは仲間じゃないの?」 倒れたイースをつまらなさそうに眺めてから、クラインは地面に降り立った。 ベリーの問いかけには答えず、そのままラブの方に歩み寄ろうとする。 そして、突然後ろを振り返った。その目が驚愕に見開かれる。 彼の視線の先にある異変。 死んだはずのイースの体が――小刻みに震えていた。 第10話 翼をもがれた鳥――よみがえる白き翼――へ続く
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私にしか出来ない。美希はそう言った。 何となく、分かる。分かってしまう。祈里が何を望んでいるか。 でも、それでいいのだろうか。私には正しい事が分からない。 でも、祈里が欲しがっているものを与える事が出来るのは私だけ。 それが、本当に祈里の為になるのかは分からないけれど………。 心臓にラブの手の平の感触が残っている。 心は、すべてラブに預けて来た。怖いものなんて何もない。 きっと、祈里にも微笑む事が出来るだろう。 心身を苛まれた祈里との情事の記憶。それを心と体が忘れる事はない。 だけど、私は大丈夫。あれも祈里の本当の姿の一つ。 大切な親友の暗闇なら、それは私にとっても大切な一部に出来るはずだから。 私はリンクルンを手に取る。アカルンを呼び出す為に。 ……… ……………… 灰色の世界。メリハリのあるモノトーンですらない、無限に広がる薄墨の濃淡。 今のわたしがいるのはそんな世界。色もなく、音は水の中にいるように 滲んで膨張し、歪んで聞こえる。 でも、そんなわたしの様子を訝しがる人なんていない。 そんなに注意深くわたしを見て、気に掛けてくれる友達なんて あの3人の他にはいないから。 (ラビリンスって、こんな感じ……なのかしら?) 心一つで灰色に変わってしまった世界を、かつてせつなが暮らした所に 当て嵌めてみる。 (こんなのがラビリンスって言ったらせつなちゃんに叱られちゃうかな。) だって、自分以外は何も変わっていないのに。 教室ではクラスメイトがお喋りに花を咲かせている。 自分に話題が振られれば、適当に相づちを打ち、他の子に話題を流す。 ただそれだけの関係。 多分、学校ではいつもと変わりなく過ごせてる。 当たり障りのない雑談や、級友の頼まれ事をこなす。 それですべてが事足りる。 腫れ物扱いすら、されない。腫れて膿を持ち、疼く傷を抱えている事すら 気付かれない。 ラブや美希、そしてせつななら、自分がこんな風になっていたら 放っておいて欲しくても、そうはさせてくれないだろう。 それ以前に、ここまで沈み込む事を許してくれない。 悩みなんて寄ってたかって強制的にでも解決させられたかも。 色のない世界に閉じ籠る事を決めたのは自分自身。 今まで自分がどんなに色彩と温もりに溢れた世界で暮らしていたか 思い知らされる。 学校から帰ると、する事もなく冷えたベッドに突っ伏す。 もうせつなの香りもとうに消えてしまった。 けど、瞼を閉じれば有り有りと確かな感触を伴い、祈里だけのせつなが蘇る。 記憶の中のせつなを思う時だけ、鮮やかに色彩を纏って世界が変わる。 白磁の様にひんやりと滑らかなせつなの肌。 それが桜色に染まり、硬く強張っていた肢体が祈里の愛撫で 柔らかく解れてゆく。手の平に、唇に熱く吸い付き、そのまま永遠に 絡み合っていたい衝動に駆られる。 黒目がちな瞳に涙の膜を張り、望まぬ快楽を受け入れ、全身を戦慄かせる。 引き結ばれた紅唇は、何も付けなくてもいつもしっとりと艶めいて、 味わう祈里をうっとりとさせた。 白い歯の間から赤い舌が覗き、隠しきれない甘さを含んだ声がこぼれる。 それは耳から脳髄を蕩けさせるようななまめかしさで祈里を狂わせた。 その声音で名前を呼んで欲しかった。 でも体が快楽を受け入れた後は、もうせつなの中に祈里はいない。 せつなはいつもラブの幻影に抱かれていた。 だからせつなが達しそうになってくると、祈里は一切の声を発しない。 それまでは、散々に言葉でいたぶっても。強制的に祈里に愛を囁かせても。 我を忘れ、蕩けてしまえば口にするのはラブの名前だけだろうから。 息を弾ませ、胸を上下させるせつなの目に正気の光が戻ってくると、 決まって彼女は虚空を睨み、唇を噛み締める。 そこに、自分を犯し続ける憎い相手がいるように。 自分にのし掛かったままの祈里の存在を故意に無かった事にしようとするように。 せつなは、そうやって祈里への負の感情を毎回毎回、逃がしていたんだろうか。 祈里を、憎まずに済むように。 せつなはどれほど泣いても、祈里に憎悪の言葉を吐く事はなかった。 どうして、笑顔だけで満足出来なかっんだろう。 決して、手に入らない事は分かっていただろうに。 禁断の果実に手を出せば楽園を追放される。 聖書の頃からの決まりきったお約束なのに。 もぎ取ったところで、果実は食べてしまえばそれでお仕舞い。 唇を滴る芳しい果汁も心までは満たしてくれない。そんな事も知らなかった。 ラブの太陽のように弾ける眩しい笑顔。 美希の澄んだ青空のような晴れやかな笑顔。 せつなの、花がほころぶような可憐な笑顔。 自分はどんな風に笑っていたのだろう。もう、思い出せない。 「後悔なんて……してないもん。」 枕に顔を埋め、硬く目を閉じたたまま、祈里は呟く。 「謝ったりなんか、しない。」 だから気付かなかった。部屋の中に深紅の光が満ちた事に。 「そうなの?よかった。謝られたって困るもの。」 祈里の心臓は、冗談抜きで数秒止まった。 もうこの部屋では絶対に聞くはずのない声を聞いたから。 ようやく動き出した心臓を宥めながら、枕から顔を上げる。 ミシミシと音を立てて体が軋む。 ロボットのようにぎこちない動きで声のした方に視線を向け、体を起こす。 もしそこにいたのがヒグマや雪男でも、これほど動揺しない自信があった。 あり得ないだろう。 だって、彼女自身がもう来ないと言ったんだから。 「………せつなちゃん……。」 どうしてここに?理由を探るより前に、全身の細胞が歓喜に震えていた。 幻ではない、確かな質量を持った姿。空気が伝える体温。 モノクロの世界に瞬く間に艶やかな彩りが刷かれてゆく。 せつなが祈里の椅子に浅く腰掛け、背もたれに身を預けていた。 「安心した。ラブや美希の前で謝られたりしたら、どうしようかと 思ってたの。」 だって、面と向かって謝罪なんてされたら許さない訳にはいかないじゃない? せつなの形のよい唇が紡ぎ出すのは氷の破片を含んだ刃。 薄く紅唇の端を持ち上げ、清楚とも見える微笑みを浮かべている。 「謝罪なんて、そんなものいらないもの。」 私があなたを許す事なんてないと思ってね? せつなは傲然と祈里を見下ろす。少し前まで、立場は逆だった。 皮肉なものだ。ただ、座っている位置が入れ替わってるだけなのに。 せつなはベッドの上で怯え、祈里は女神のように震える囚われ人を ねめつけていた。 支配されていた。身も心も。 目の前で身を硬くして震えている小さな少女に。 今となれば分かるのに。どれほど祈里が怯えていたか。 必ず訪れる終わりに。終わりの後に待っている、終わりのない責め苦に。 せつなと再び同じ空間にいる。その喜びが祈里の全身に行き渡る前に、 せつなの言葉が脳に届く。 上昇した体温が急速に下がり、指先が冷たくなる。 何も驚く事などないはずなのに。まかり間違っても、優しい言葉や 親しみの籠った表情を貰えるはずなどないのに。 祈里は自分の卑しさに身を捩りたくなる。 期待していた。せつなからの甘い温かさを。 叶わぬ想いを抱えた祈里の辛さを労ってくれるのではないかと。 「だって、せつなちゃんが、好きだったんだもの………。」 それなのに、言葉が勝手に唇を離れて行く。 今になって、こんな事言っても何もならないのに。 「せつなちゃんが、欲しかったの。」 せつなはモノじゃない。 そう、ラブに言われたばかりなのに。どうして、こんな事しか言えないのだろう。 「わたし、せつなちゃんがいれば…他に何もいらないよ……。」 だからお願い。わたしを見て。 「嘘ばっかり。散々私をおもちゃにしたくせに。」 楽しんでなかったなんて言わせない。 今さら綺麗な言葉で取り繕わないで。 せつなの瞳に影が落ちる。憐れむような、蔑むような。 薄く微笑んだまま、せつなは祈里の哀願を一蹴する。 「……わたしの事、嫌いにはなれないって言ってくれた……。」 容赦のないせつなの爪に祈里の柔らかな部分が毟り取られる。 祈里はせつなの視線にすがり付く。 せつなを愛してる。弄びたかった訳じゃない。 それだけは、信じて欲しかった。 「じゃあ、そうしてあげるわよ?」 「……え………?」 「あなたのモノになってあげる。これから二人でどこかへ消えましょう?」 せつながリンクルンを振って見せる。 「本当に、何も分かってないのね。」 誰も知らない場所で、二人きりで生きていくの。 あなたを守ってくれる人も、頼れる人もいない。何一つ持たず、誰にも告げず ここから出で行ける? 私がいれば他に何もいらないんでしょう? だったら、出来るわよね?出来るなら、連れて行ってあげる。 そこで、あなただけを見ていてあげるわよ。 私には、本当にそれが出来るもの。 せつなは本気で言っている。それが分かり、祈里の背筋に霜が降りる。 だって、それはせつなはそれを既に経験しているから。 命すら奪われ、体一つでさ迷う事を余儀なくされたせつな。 もし、ラブに迎え入れられなかったらどうなっていたのだろう。 それを思った瞬間、祈里は底の見えない穴に引き込まれるような 感覚に、全身が総毛立った。 祈里がせつなから奪ったもの。それは一時、体を貪るだけの事ではなかった。 せつなが底知れぬ闇から這い上がり、ようやく掴んだもの。 祈里にとっては持っているのが当たり前で、存在を意識する事すらなかったもの。 人は息が出来なくなって、初めて自分が空気に包まれていることを意識する。 祈里が、せつな以外はいらない。そう思えたのは余りに当たり前に 幸せに包まれていたから。 せつなを自分だけのものに出来る。 二人だけで見知らぬ場所で。 祈里も何度も夢想した事がある。 胸を締め付ける途方もなく甘美で、少しばかりのやるせなさを含んだ妄想。 現実には起こり得ないと分かってるからこそ浸る事の出来る、 無邪気で幼稚な一人遊び。 「馬鹿な子。」 せつなは祈里に歩み寄り、惚けたように自分を見つめる祈里の顎に指を掛ける。 「こちらに来て学んだことの一つがね、豊かな人ほど欲張りって事。」 どうしてあんなに欲しがるのかしら?両手にも抱えきれないくらい 沢山持っているのに。 腕から溢れてこぼれ落ちてもお構い無し。 こぼれた分まで、また余分に掴み取ろうとするの。 ねえ、あなたは何でも持っていたじゃない。 温かい家族。分かり合える親友。未来への夢。それを叶える事の出来る環境。 出来の良い頭。可愛らしい容姿。 他にもたくさん。 それなのに、なぜ私まで欲しがるの? 私の他には何もいらない。そんなの嘘。 あなたは何一つ捨てられはしない。 だって自分がどれほどの物を持っているか。そんな事、考えたことすら ない人なんだから。 「あなたは欲張りで、傲慢で、残酷な子供よ。」 自分が持っていないから。それだけの理由で、他の子の片手にも満たない 少ないおもちゃも取り上げられるんだから。 あなたは私から、ラブへの想いと、初めて出来た親友を奪い取ろうとしたの。 打ちのめされる、と言うのはこう言う事なんだろうか。 罪を理解してるつもりだった。 償う為、自分の辛さから逃げていないつもりだった。 何一つ、理解していなかった。単なる独り善がりな自己満足。 泣いてはいけない。そう自分に課した罰さえ忘れ、祈里の頬は溢れる涙で 幾筋もの模様が画かれていた。 せつなは細く繊細な指で祈里の顔中をなぶる。 瞬きすら忘れた瞳から流れ落ちる涙を頬に伸ばし、しどけなく開いた唇を 形の良い爪で弾く。 祈里はされるがままに、せつなを見つめていた。 「……どうすれば、いいの……?」 許して欲しいなんて夢にも思わない。 ただ罪の深さに溺れたくない。 どうすればいい?教えて欲しい。どうすれば、溺れずに済むの? どうすれば………ほんの少しでも償えるの? 「奪ったものを、返してくれればそれでいいわ。」 ラブへの想いは自分で取り戻した。ラブがもう一度与えてくれた。 「私の親友を、返して。」 ブッキーはいつもおっとりと優しく微笑んでくれたの。 彼女といると、ゆったり穏やかな気持ちになれた。 我が儘で身勝手なあなたなんていらない。 ブッキーを、返して。 「………無理よ……。」 また、以前のようにせつなに微笑むなんて出来ない。 ラブの隣で、ラブの愛情で包まれてるせつなと、今までと同じように 並んで歩けと言うのだろうか。 「やりなさい、祈里。」 それ以外のものは受け取らない。あなたは笑わなくてはいけない。 私や、ラブや、美希の為に。 あなたの気持ちなんてどうでもいいの。 だって、これは罰なんだから。辛くなければ意味がないでしょう? あなたは見ていなければいけないの。私が幸せになるところを。 微笑んで、祝福して、そしてあなた自身も見付けるの。 私を手に入れる以外の幸せをね。 せつなの顔が、ゆっくりと降りていく。 祈里は自分の唇がせつなの唇で塞がれるのを、感じた。 何度も味わったはずの唇。 それなのに、初めて触れ合うかのような甘美さに、頭が痺れる。 魔に魂を奪い取られる瞬間は、こんな感じなのかも知れない。 穢れのない天使の口付けのように穏やかなのに、天使には持ち得ない 官能を揺さぶる背徳感。 舌の先すら絡まないのに、粘膜が擦れ合う淫靡さに体の奥から潤いが降りてくる。 無意識に腕が上がり、せつなの腰を抱き締めようとしていた。 「駄目よ。」 柔らかく、しかし短くせつなが拒絶する。 唇を重ねたまま言葉を発したので、開いた隙間で歯が軽く触れる。 「あなたから、私に触れるのは許さない。」 祈里はビクリと震え、所在なげにダラリと両腕を垂らす。 せつなは唇を離し、祈里の唇を指でなぞる。 祈里は自分の唇を這っている白い指の腹をちろりと舐めた。 せつなが咎めないのを見て、指に舌を絡め口腔内に引き込む。 人差し指と中指を音を立ててしゃぶり、指の又に舌を這わせる。 「触らないでと言ったはずよ。」 しばらく祈里の好きにさせた後、指を引き抜き祈里のシャツで無造作に拭う。 潤んだ瞳で見上げてくる祈里。 その胸中は多分に糖分を含んだ痛みに溢れていた。 せつなの側で、せつなの幸せを見届ける。 決して触れられない。二度と、過ちは冒せない。 祈里の背筋に粟立つように震えが走る。 一瞬で終わる許しより、緩やかに永く続く痛みと胸苦しさを。 それが、せつなのくれた罰。 また一筋、涙が流れ落ちる。 悲しいからではない。ようやく、救われた。 痛みを抱き、罰を孕んで生きていく。せつなが逃げ道を示してくれた。 祈里が壊れないように。笑う事に罪悪感を覚えないように。 「今度は、玄関から来るわね。」 ラブや美希と一緒に。 せつなが淡く微笑みを残し、消えて行った。 もう、泣いても良いんだ。後悔か、安堵か、何の涙かは分からない。 それでも、声が枯れるまで祈里は泣いた。 せつなは、祈里がせつなを愛し続ける事を許してくれたのが分かったから。 あなたを愛しています。 例え、指一本触れる事が許されなくても。 ……… …………… (私、絶対アカルンの使い方間違ってるわよね。) せつなは苦笑する。もう何度、自分と祈里の部屋を往復しただろう。 ベッドに腰掛け溜め息をつく。 その途端に、今まで大人しくしていた心臓が胸の中で暴れだした。 せつなは左胸を掴み、顔を歪める。跳ね返る鼓動を抑えようとしながら、 瞳を閉じる。 あれで良かったのか分からない。 ただ、自分は知ってる。 罪を犯した人間は許されるだけでは救われない事を。 罰を与えて欲しい。償いたい。例え、何の意味もない自己満足だとしても。 誰が許すと言っても、自分で自分を許せなければ、穏やかな眠りは訪れない。 彼女を、祈里を罰する事が出来るのは、自分だけだ。 (祈里………笑って…?) 例え、償いの為の無理強いでも。 あなたは偽りの微笑みだと感じるのかも。 でもね、私は知ってる。笑顔は幸せを呼び寄せてくれるって。 あなたが自分を騙して、心ない表情を浮かべているつもりでも。 笑顔はいつか本物になれる。 だって私の事、好きになってくれたあなたは、本当に素敵な笑顔を 私にくれてたもの。 だから祈里。最初は嘘でもいいの。 きっと、次に会った時は笑ってくれるわよね? 『せつなちゃん!』そう、呼んで手を振ってくれる。 あなたには、それが出来るって、私は信じてるから。 6-703エピローグへ
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【彗星のかけら】/恵千果◆EeRc0idolE ここは美希の部屋。夜が更けてしんとした中、ふいにリンクルンが鳴りメールが来たことを告げる。 その音で美希が目を覚ます。 ん…メール…?こんな時間に誰だろう。訝しく思いながら美希がリンクルンを開くと、差出人は祈里だった。 『きっともう寝てるよね』 文面から、申し訳なさそうにしている祈里の顔が浮かび、美希は思わず微笑みながら急いで返信する。 『起きたわよ。どうしたの?』 返信してすぐ、折り返すように着信がある。美希が起きたことを知り、祈里がかけて来たのだった。 『こんな遅くにごめんなさい。窓を開けて、空を見て!お願い』 「わかったわ」 祈里に従い、窓を開けると、ひんやりした冷たい夜の空気が入り込んでくる。見上げるとそこには満点の星空。 「うわ…すごい星ね…」 『美希ちゃん、オリオン座のそばを見て』 祈里の言葉を聞いて、急いでオリオン座を探す美希。 「オリオン座、オリオン座…ねぇ、オリオン座ってどんな形だっけ?」 『砂時計みたいな形で、真ん中に星が3つ並んでるの』 「あ、これね!」 美希がようやくオリオン座を見つけた時、光がすっと横切った。 「ああっ!今、流れ星が…あ!あっちにも!」 興奮する美希に、電話越しに祈里が話しかける 『今ね、オリオン座流星群が見えるんだって。お願いごとが叶いやすいかしらって思ったら、つい美希ちゃんにも見てもらいたくなって…起こしてしまってごめんなさい』 美希は祈里の優しい気持ちに、心が温かくなる。 「その気持ちが嬉しい…ありがと祈里。それで祈里は何をお願いしたの?」 『美希ちゃんがモデルとして、もっともっと活躍しますように…って』 「それ…だけ?他にはないの?」 もっと甘いお願いごとが聞きたかった美希は、ついつい意地悪く聞き出そうとする。 『ぁん、わかってるくせに!あとは内緒よ』 「わかってるけど、祈里の口から聞きたいな…」 『もう、しょうがないなぁ…これからも美希ちゃんとずっとずっと一緒にいられますように…って』 会話するふたりの上で、幾つもの星たちが流れ落ちてゆく。 「あー満足!それが聞きたかったの」 『恥ずかしいなあもう…なんだか顔が熱いよ』 「照れてる祈里、可愛い。祈りのプリキュアにお祈りしてもらったら、叶うわね、きっと。あ!アタシも祈らなきゃ。祈里とずーっと一緒にいられますように!」 一方その頃、桃園家のベランダでは、ラブとせつなが並んで星を見上げていた。 「先生が言ってたけど、三千年前のハレー彗星のチリがこの流れ星なんだって。そう思って見ると凄いよね」 「ええ…とても古い彗星のかけらが今、光になってるのね…」 「へへー、何だかロマンチックだよね!」 寒さで赤らんだ頬を緩めてラブが笑い、同じく赤らんだ頬でせつなが微笑み返す。 「せつな、知ってる?流れ星にお願いごとすると叶うんだって」 「本で読んだことがあるわ。この国にある言い伝えなんでしょう?」 ラブからの返事がない。見ると、ラブは星空を見上げながら、何事かを呟いている。 「ラブ?何て言ったの?」 「せつながね、これからもっともっともーっと!幸せゲットできますようにって!」 「ラブったら…」 せつなは十分幸せだった。この家に来て、ラブやラブの両親に囲まれ、仲間たちと過ごせる今の時間が、何よりの幸せなのだから。 「じゃあわたしも」 ラブを真似て、せつなも夜空を見上げて呟く。 「これからも皆とずっと一緒にいられますように」 「あたしと、でしょ?」 「んもう…バカ」 くちづけるふたりのシルエットを、星たちの光が優しく照らしていた。
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この手を離さない/そらまめ 担任に帰りの挨拶をして職員室からでたラブは、待たせてしまっているせつなの元へ急いでいた。思いのほか時間が掛かってしまったから、せつなは待ちくたびれているだろうか。 …少し息を切らせながら教室に戻ると、窓を背もたれに、視線を手元の開かれた本に下げている彼女がいた。文庫本サイズの本を片手で持ち、もう片方の手は窓の淵に置いて、少し開いた窓から入る風が彼女の髪をなびかせる。 放課後の教室に影が差し始める中、ひとり日の光を受けて照らされるその光景はなんだか本当に様になっていた。 頭脳明晰で他人を気遣える彼女は、転校してきてからまだ日が浅いと言うのにすでに人気者になっていた。せつなは自分の事をあまり話さない。そのせいか謎めいた部分があると周りからは見えるらしく、加えて哀愁が見え隠れすることに守ってあげたくなる気がしてくるらしい。 中学生にしては落ち着いて物事を見ることができるせつな。 落ち着きもなく勉強も運動もそれほどできない自分とは正反対な彼女が、他の誰でもない自分を待っていてくれているかと思うと、なんとも言えない不思議な気持ちになる。 ……本来なら友人にすらなれなかったかもしれない。 ラビリンスでも幹部という地位にいたのだから、あちらの世界ではそれなりに偉い立場の人間だったのだろう。同じ年齢なのに。 一体どれほどの苦労をしてきたのか。想像すらも出来ないような過酷な日々を送っていたのかもしれない。 せつなは、あたしにとっての日常に慣れる事に時間が掛かった。たくさんの同い年の子と一緒に日々を過ごしていく事や、何かを協力してやるという事、それら全てに驚きを感じながらも早く慣れようと精一杯努力していた。 そんなせつなを見て、一度、聞いた事がある。こういう風に同い年の子と勉強したり、学校にあたるものには通っていなかったのかと。 「ねぇせつな、ラビリンスには学校とかなかったの?」 「あったわ。大人数に勉学を教える施設なら。もっとも、すぐに個別のプログラムが組まれるから集団というだけでクラスなんかの概念はなかったけど」 「へー、個別のプログラムってどんなことしてたの?」 「他の人の事は解らないけど、私の場合は政治、情報、経済なんかの国に関わる知識を多く教えられたかしら。でもオールジャンルだったわね。後は訓練が多かったわ」 「訓練?」 訓練という言葉に学校との繋がりを感じなかったラブは首をひねった。 「ええ、メビウス直属の部下になってからは特に多くて、反抗心がある人や、他の世界でメビウスに都合が悪い事をしている人を討伐するためには荒事が絶えなかったから」 なんてことないようにそう言うから一瞬言葉に詰まった。訓練とは戦闘の事だったのか。 それは、自分が思いつかない程非日常的な事が、せつなにとっては日常だったという事で、戦いについて学ぶことは当たり前だと認識していたという事だ。こんなのって… そんな考えを感じとったせつなは、困ったように笑いながら、「ごめんなさい」とあたしに言った。それに慌てて「こっちこそごめんっ!」なんてそれ以上は深く考えずにフォローに徹したから暗い雰囲気にはならずに済んだ。 でも、今改めて冷静に考えると、この「ごめんなさい」にはどれだけの意味が込められていたんだろう。 せつなの気持ちになったつもりで考えれば、いつまでも慣れずに迷惑かけてごめんとか討伐なんてやってたことに対してのごめんとか、そんな私がここにいてごめんとか、あまつさえ友人として一緒にいてごめんとか思ってそうで少し悲しくなる。 せつなは自分の事ならどこまででも暗く考えてしまえる。その、いつまでも暗い部分が抜けないことを、何も知らない人たちはミステリアスと感じているのかもしれない。影のある方が素敵だなんてよく言うけど、影の部分を少し知っているあたしからすれば、そんな事口が裂けても言えるわけない。 せつなは命を他人に預けることが普通だと思っている。実際メビウスの為ならなんだってやっていた。年端もいかない女の子が戦闘に明け暮れるなんて一体どこの戦争地帯なんだろう。 自分が日本でのほほんと暮らしていた時、せつなはどこか別の世界で部下を引き連れ戦っていた。自分が友人と街に行き買い物をしていた時、せつなは戦闘に必要な武器を吟味していた。 悲しくなるほどの違い。でもあたしはそれを悲しんではいけないと思う。同情めいた感情で見てしまえば、せつなにとってのその過去は間違っていたものだと思わせてしまうから。 何をしてきて、それが正しかったのかその判断さえままならない所にいて、それでもその時のせつなはただ一生懸命に生きていた。生きることに必死だった人を、あたしはその人に向かって、「あなたのしてきた事は間違っている」と言えるほど人生経験をしてきた訳ではないし、そんなことを平気で言える人間ではいたくない。 あたしがせつなのためにできることは、過去を思って同情する事じゃなく、これからの、未来にたくさんの思い出を作っていける様に手助けする事だと思う。 せつなを教室の入り口からずっと見ていても、こちらに気付く様子はない。読んでいる本が余程面白くてその世界にのめり込んでいるんだろうか。 そういえば前に、「今まではあまり本を読んだことがなかったから新鮮だわ。」と言って分厚い辞書のようなものを図書館から借りて読んでいた時は、あたしはきっとせつなが生涯読む本の十分の一も読まないんだろうと悟った。 読むジャンルは特に決めていないようで、興味のあるものはなんでも読んでいた。それこそ普通の小説から料理本、正しい言葉の使い方という本やビジネスで役立つ手紙の書き方、果てはなんでそんなものがあるのか解らないが黒魔術の本なんて読んでいた時は、一体どこに向かっているのか謎だったし、いつか、キャンプに行く時はギターを持って、御供と言えば町娘の格好で! みたいに変な知識を言い出さないか心配ではある。 光がだんだんと細くなっていく。最初は教室の半分程度が照らされていたのに、今ではせつなのいる窓辺の一部分しかオレンジになっていない。 それを眺めていたら、唐突に、この暗い教室の入り口にいる自分と、光を浴びるせつなとが切り離されてしまったように感じた。 あのまま光が消えてしまったら、同じように彼女も消えてしまいそうで、思わず震える自分を抱き締める。それくらい、彼女の存在は希薄に感じた。 あたしが怖いのは、せつながいなくなってしまう事。自分の手の届かない遠くへ行ってしまう事。 元々こちらの世界の住人ではない事に、彼女をここに留めておく理由を見つけられない。いつでも、すぐにでも飛んでいなくなりそうな気がしてならないから、そんな不安をどうにかしたくて、気軽に飛んで行かないように、自由に消えてしまわないように、あたしはせつなに重りをのせた。 せつなのまわりに大事なものを増やして、守らなきゃいけないものを増やして。 そして、桃園ラブというとても重い荷物を彼女に背負わせている。 せつなが自分を大切にしてくれている事は知っている。解かる。だからあたしはそんなせつなの心を利用して、罪悪感で押しつぶされそうな彼女の心の支えになる事で、さらに離れられないようにしている。一緒にいるのはせつなのためではなく、自分のため。 こんな打算的な考えをしていると、せつなには気づいてほしくない。彼女はとてもまっさらだと思うから。特にあたしに対しては疑おうともしない。 ずっと一緒にいたい。いつまでもあたしの傍にいて欲しい。 独占欲が増していく。 教室も黒く塗りつぶされた。まるで、自分の心のようだと思った。 ハッとしてせつなの居た場所を見る。太陽は隠れてしまったが、彼女はまだそこに居てくれているだろうか。 目を凝らすと、視線の先の黒いシルエットがかすかに動いたのが解った。さすがに文字が読みづらくなったのか、本にしおりを挟んで閉じようとしている。 ゆっくりと顔が上がる。 目が合った。 と思う。暗くて表情がよくわからないから感覚だけで判断したが、視線が交わった瞬間そこだけ光がさしたように、花が咲いたように微笑んだせつなは、綺麗とかではなくとてもかわいいと思った。年相応というか、子供っぽいような表情。こういう顔は他の人にはあまり見せない。気を許している相手、それもごく限られた人にしか見せない。少し嬉しくてつられて笑った。 こんな黒い空間でも、せつながいてくれるだけであたしはこうして笑顔になれた。 せつながいるからあたしは笑っていられる。 だから、離さないようにしなきゃ。幸せは自分でゲットしないと。 「ラブ、帰ってきてたなら声掛けてくれればいいのに」 「ごめんごめん! 今来たとこなんだ。先生の話長くてさー」 「もう暗くなるわ。急いで帰りましょう」 「うん! あ、せつなー、暗いし危ないから手繋いでかえろー」 「ふふっ、そうね。はい」 「やったー 幸せゲットだよ!!」 「わわっ!そんなに引っ張らないでラブっ!!」 離さないようにぎゅっと力を入れた手に、握り返してくれるせつなの手の暖かさがなんだかとても心地よかった。
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レス番号 作品名 作者 補足 1-009 したらばのフレッシュ用スレより転載 ラブせつ 1-171 神無月の巫女12話改変ネタ ラブせつ 1-176 ラブせつ 1-247 ラブせつ 1-252 ラブせつ 1-259 ラブせつ 1-312 美希ブキ 1-353 ラブせつ 1-481 ラブせつ 1-528 ラブせつ 1-722 ラブせつ 1-841 スイーツ♪スイーツ♪ MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-846 相思相愛 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-849 ハッピーカムカム MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-864 ラブせつ 1-886 花言葉 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-918 ラブの似顔絵教室 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-937 1-940 秘密のでぇと MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-995 眠り姫 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 1-997 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 2-45 2-52 桃色片思い!? MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 2-62 ある日のお風呂 2-62 短編 ちょっぴり…H 2-101 2-101 公式メルマガから発展した小ネタですよ 2-105 もぎたてフレッシュ MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 2-106 とれたてフレッシュ MH22S ◆Tp0rBcFpoc 短編 2-154 妖精さんは見た? タルト視点 ラブせつ 2-286 2-286 こんな所にも幸せが。番外編有り 2-469 2-286 2-706 2-706 29話のちょっと百合な世界 3-31 【燃料の自覚】 3-31 短編・ラブとせつなが結婚!?おまけ付き 3-47 【MOMENT IN LOVE】 3-47 短編・なかよし必見! 3-85 3-85 31話必見 3-91 3-91 31話必見 3-111 【ありふれた日常】 3-111 3-790 3-790 33話からの妄想。4人は片思い。 3-792 3-792 33話からの妄想。せつなの心情。 3-397 3-397 3-440 【お土産】 3-439 短編・噂の〝アレ〟が行われる前のお二人 4-205 4-205 愛してるって難しいわ… 4-490 『お邪魔虫』 4-474 とりとめのない妄想、みんなキライじゃないでしょ? 4-535 「2連敗」 ◆BVjx9JFTno 泣きたい時は泣けばいい。恥ずかしい事じゃないから。噂のあの人登場! 4-558 「ラブと由美 せつな争奪戦!?」 418 419 420 443with保管屋 総受けせつなはあの人までもトリコに。 4-563 【運命の矢】 MH22S ◆Tp0rBcFpoc イースの最後の想いとは?叶わぬ夢なのか… 4-638 4-638 ラブさん取り合っててんやわんや 4-681 【感じる力】 4-681 35話から発生した小ネタ。せつなの特殊能力はダテじゃない! 4-735 【ここだけの話】 665 668 669 670with保管屋 35話から発生した妄想が暴走して一つの作品に!タルト視点。 4-758 「今はこのままで」 4-758 26話から発展したお話。微笑ましいせつなと可愛いシフォンのやりとり。心がやすらぎますよ。 4-783 「四つ葉、萌える時」 4-783 10月29日、あそびコレクション発売記念! 5-110 「ハピネスタイフーン」 5-110 10月8日台風直撃!その時ラブとせつなは!? 0-000 【最後の賭け】 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 訪問感謝作品w 0-001 【恋心】 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 0-002 【呼称名称愛称】 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 呼称一覧作ってくれてありがと記念w 0-003 【寝不足】 MH22S ◆Tp0rBcFpoc 9月12日ブッキー祭り記念
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「お待たせ~っ! 買ってきたよ!!」 晴れ晴れとした笑顔と一緒に、ラブが戻ってきた。 その横にいるブッキーは、やや苦笑混じり。 で、アタシはというと…さながら、判決を待つ被告人。 公園のベンチに腰掛けて、全身の悪寒と格闘中。 「はい、せつな。熱いから気をつけてね」 「ありがとう、ラブ」 アタシの隣に座るせつなが、“それ”を受け取る。 「さぁ美希、どうぞ」 「ぅぐ……あ……ありが……と……」 アタシの方に“それ”を差し出すせつな。 ほかほかと湯気をあげる“それ”は、紛れもなく。 「むむむ……」 アタシの目の前には、たこ焼きが並んで八個。 ラブとブッキーは目の前に立って、せつなは隣に座って、アタシを見つめている。 「でも美希ちゃん、すごいよね。せつなちゃんを助けるために、タコ嫌いを克服するなんて」 「そうね。ベリーが助けに来てくれたのは、本当に嬉しかったわ」 「やっぱり美希たん、すごいよね~。タコカフェに行った時だって、手をつけなかったのに」 昔からアタシのタコ嫌いを知ってる幼なじみ二人は、ニコニコ顔。 隣を見れば、真剣な眼差しのせつな。 「で……でしょ~? アタシ、苦手を克服するのも完璧なんだからっ!」 って、自分で自分を追い詰めてどーするのよアタシ! ナケワメーケを倒すのと、たこ焼き食べるのじゃ大違いだってのに…トホホ。 アタシは改めて、視線をプラケースに移す。 目の前では、カツオ節がふわふわと踊っていて。 ソースと青ノリの、香ばしい匂いが漂っていて。 …でも、中にはタコが…タコが…。 子供の頃、アタシの右腕に絡みついてきた触手と吸盤。 至近距離で見た、その宇宙人のような顔。 思い出すだけで、背筋を寒~いモノが駆け抜けていった。 やがて。 「あれ…美希たん?」 ラブの表情が、怪訝そうなものに変わっていた。 膝の上にプラケースを乗せてから、既に三分経過。 アタシの右手には、震える爪楊枝。 要するに、全く先へ進んでいないわけで。 「んじゃ、あたしが一個もらっちゃお! これ、借りるね?」 「え、あっ」 ラブはアタシの手から爪楊枝を取ったと思うと、たこ焼きを一つ口にして。 「あちちっ…むぐむぐむぐむぐ…ん~っ、おいし~っ! ほら、ブッキーも食べてみなよ!」 「そう? じゃあ…美希ちゃん、一つもらうね?」 ラブから爪楊枝を受け取ったブッキーも、たこ焼きを一つ口にして。 「はふはふ…もぐ、もぐ…うん、おいしいっ! せつなちゃんも、食べてみる?」 「ええ。いただくわ」 ブッキーから爪楊枝を受け取ったせつなも、たこ焼きを一つ口にして。 「ん…むぐ…本当、おいしいわ…」 「でしょ?」 あああ、外堀がどんどん埋まっていく。 そして、ラブが再び爪楊枝をアタシに握らせた。 「さぁ、次は美希たんの番だよ!」 「そ、そうね……じゃあ、そろそろ……」 ダメだ、どこにも逃げ場は無い。 和希でも来てくれれば話を逸らせるけど、あいにく今日は友達と外出。 ミユキさんのレッスンも無いし、カオルちゃんのドーナツカフェもお休み。 タルトとシフォンは桃園家でお留守番だし、こんな時に限ってラビリンスすら現れない。 色々な人に内心で恨み節を唱えつつ、アタシは爪楊枝を少しずつたこ焼きに近づける。 その時だった。 「美希、ちょっとこっちを向いて」 「え?」 隣に座るせつなに声をかけられ、反射的にアタシは彼女の方を向いた。 せつなはアタシの手から爪楊枝を取ると、たこ焼きを―。 「えっ?」 「せ……せつなちゃん?」 自分の口に運んだ。 何が何だか分からず、アタシは目を丸くする。 「どうしたの、せつな? もしかして、たこ焼きが気に入った?」 ラブの声にも応えず、かといって口を動かすでもなく。 と、思いきや――突如、せつなの両手がアタシの肩を掴んだ。 「せ…せつな?」 そして。 「ん……」 そのまま近づいてくる、せつなの唇……って、ちょっと!! アタシは大慌てで、無理矢理せつなを引きはがした。 彼女はその拍子に、たこ焼きを呑み込んじゃったみたいだけど。 「ちょ…な、何してんのよっ!」 「ん…シフォンがグズっていた時に、ラブがこうやってゴハンを食べさせてるのを見たわ。 確か“口うつし”って言うんだったかしら?」 「く…口うつしぃ~っ!?」 アタシ、シフォンと同レベル扱い?…というツッコミも、思い浮かばなかった。 たぶん…というか間違いなく、アタシは顔が真っ赤だったと思う。 見ると、ラブもブッキーも真っ赤になっていた。 もしあのまま、抵抗せずにいたら…。 無意識のうちに、せつなの唇に視線を移してしまう。 リップもしていないのにつややかな、まるで花びらのような唇。 あの数秒後を想像すると、胸がドキリと高鳴ってしまう。 ア……アタシ、どうかしちゃったのかも……。 「美希、なかなか食べられないみたいだから。協力できたらと思って」 「あ…あのねせつな、そういうのはシフォンだからOKなの! ア、アタシは…」 「美希はダメなの?」 「と、当然よ! だいたい、女の子の唇っていうのは、もっと大切な人のために」 「私は、美希が大切よ」 「はい!?」 固まってしまった。 というより、次の言葉が思いつかない。 「あ……あの……あのね、せつな……その……ア、アタシ……」 「だって、私にとっての美希は、大切な友達で、プリキュアやダンスの仲間ですもの」 「あ、そう…」 そうですか…というか、普通そうよね。 変に深読みしてしまった自分が、恥ずかしいというか情けないというか。 ダメだアタシ、全然完璧じゃない。 っていうか、“天然”も時々罪だわ…。 でも、その真っ正直なところが、せつなのいい所。 まっすぐで、正直で、優しくて。 それが分かったアタシは――覚悟を決めた。 「……せつな、ありがとう。アタシ、大丈夫だから」 「美希、でも…」 「このくらい、食べてみせるわよ。だってアタシ……完璧だもの!」 ウインクしてみせると、せつなも安心したように笑みを浮かべた。 意を決したアタシは、爪楊枝をたこ焼きに刺し、口に運ぶ。 柔らかい生地の中に、コリッとしたタコの感触。 でも、アタシは――それを噛みしめて、呑み込んだ。 「……ふぅ……」 「美希ちゃん!」 「やったね美希たん! タコ、食べられた!!」 「みんなのおかげよ。それに……何より、せつなのおかげ」 「美希……」 ただ、口うつしはカンベンね。 そう言うと、せつなは「どして?」と小首を傾げる。 あー、やっぱり分かってない。 しかも、そんな仕草まで可愛いんだから、反則だっての…。 「だから…アタシの、理性が…その…あ~っ、も~っ!」 「み…美希…?」 前言、一部撤回。 やっぱり“天然”は重罪だわ。 罪状は窃盗、盗んだのはアタシの――。 ~ Fin ~
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「あたしの部屋でいいかな?」 「ええ。畳のベッドで寝れるのね」 「もしかしたら寝辛いかも」 「大丈夫よきっと」 嵐の前のふとした瞬間。その時ばかりは二人とも、台風の事など忘れてしまっていて。 今はただただ、二人で一緒に寝られる事が優先していた。 せつなは持ち込んだ自分の枕をそっと、ラブの枕の隣へ置いた。 決して大きくはない畳のベッド。並んだ二つの枕。思わず笑みがこぼれる。 「寝返り打てるかしら?」 「せつなって寝相悪かったっけ?」 「ラブほどじゃないわよ」 「失礼しちゃうなー」 今晩だけはベッドから落ちないように心掛けなければ。ラブのちょっとした決意。 あるいは、せつなにみっともない所を見せたくないような乙女心。 ツインテールの髪の毛を結んでいたゴムを外す。それはラブの一日の終わりを意味する。 「ラブ、雨強くなってきたわ」 「ほんとだ…」 窓に映る二人の少女に飛び込んできたのは横殴りの雨。そして、強さを増していた風だ。 木々たちは揺れに揺れ、その勢いはまさに四ツ葉町を飲み込んでしまう程。 ギシギシと窓から伝わる激しい音に、果たして眠る事が出来るのだろうか。ラブとせつなの表情は一転して不安な面持ちとなってしまう。 「大丈夫…だよね」 「――――」 せつなには正直、わからなかった。こんな経験初めてだから。 両親に促され休む事にはしたが、あの時圭太郎から言われなければそれこそ、朝まで起きていたかもしれない。 それ程までに今の目に映りこむ情景は衝撃的だった。普段は静かな町がこんなにも荒れ狂うなんて、と。 「寝よっか」 「ラブは寝れそう?」 「一人じゃ無理だったと思うよ」 「…私も」 一緒に寝れるのは嬉しいし、気持ちを伝えた時は本当にドキドキしていた。子供っぽくて恥ずかしかったけど。 せつなはどうだったのかな。自分と一緒でドキドキしてくれたのかな。一緒に寝れるのは嬉しいのかな。 相手の事を想うと、不思議と眠れそうな気がした。あわよくば夢でも一緒に居られたら尚。 「入ろ?」 「じゃ電気消すわね」 ――パチン―― 壁際にせつな。ラブは寄り添うようにして隣に潜り込む。 肩と肩、腕と腕は僅かながら触れ合っている。 いつも以上の〝あたたかさ〟を感じている。 そう。 それは―――お互いに 外はさらに荒れ始めていた。 ガタガタと家が軋んでいる。とてつもない雨風。恐らく暴風域に入ったのだろう。 無意識に緊張が走る。とても眠れそうな雰囲気ではない。 「ラブ…」 「怖いね…。あたし初めてだよ、こんな台風…」 「12月は雪が降るはずでしょ?どうして―――」 「ほんとだよ…。せっかくせつなと一緒に寝れるのにこれじゃ台無し」 「また一緒に寝ればいいわよ。私、今日は今日でいい思い出になりそうよ」 「怖い思いだけは勘弁だよ…」 「だったら―――」 「あっ…」 せつなはラブの手を握った。優しく、気持ちを込めて。 右手から伝わる温もり。左手で受け取る温もり。 「私、本当はドキドキしてるの。…わかる?」 「―――うん」 目を閉じているのだけど、お互いの表情や気持ち、感情がわかるような気がした。 手と手が繋がっている事。それは今の彼女たちにとって、何よりも大きな物に違いなかった。 「ねぇせつな」 「何?」 「この先、何があっても絶対…ぜーったい一緒にいよっ」 「ふふ、おかしな事言うのねいきなり」 「笑うとこじゃないってばー」 「くすくす」 「もぅ…怒るよせつなー」 「ごめんなさい。でも聞くまでもないじゃない」 「ん?」 「私はいつも、ラブと一緒よ」 「せつな…」 ラブの胸の奥が〝きゅん〟と鳴った瞬間だった。 考えてみれば不思議な光景かもしれない。 季節外れの大型台風。家の中では少女たちの新たな一歩。 相通じるものは、どちらも緊張が伝わると言う事だろうか。 み-602へ
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遠くから聞こえてくる太鼓と鐘の音。 祭りの開始を告げる祝砲が鳴り響く。 四ツ葉町の一大イベント。クローバーフェスティバルの開催だ。 「これすっごく可愛いよ。ありがとう、おかあさん」 「ありがとう。昨年の浴衣もまだ一度しか着てないのに」 「いいのよ、せっちゃん。晴れ着を新調するのは母親の喜びなんだから」 「いやあ、父親だって嬉しいものだぞ。よし、次は二人一緒に並んでポーズだ」 ラブとせつなが新しい浴衣を披露する。圭太郎は嬉しそうに記念写真を撮っていく。 「頑張って作った甲斐があるわ」とあゆみも上機嫌だ。 ラブは白地にいっぱいの花柄。ピンクに紺のラインの浴衣帯。 せつなは薄紅色の生地に大きなリボンと水玉の柄。赤い菱形模様の浴衣帯。 ポーズなんて取る必要も無い。自然にこぼれる笑顔。うずうずして勝手に動く体。 せつなはすっかり浴衣が気に入っていた。 華やかな浴衣を着ると心が弾む。わくわくして晴れやかな気持ちになる。 それでいて、しっかりと肌に馴染んで落ち着く。矛盾してるけど全部ほんとうの気持ち。 不思議だと思う。 お風呂上りの着衣として生まれたものらしく、軽くて風通しも素晴らしい。 もっと普段から着る機会があればいいのに。それだけが不満だった。 「美希たんとブッキーが待ってるんだ、あたしたちは先に行くね」 「おとうさん、おかあさん、行ってきます」 新調したばかりのピンクと赤の下駄を履いて玄関を出た。 賑やかな祭り囃子と勇ましい掛け声。いつもよりずっと多い人の流れ。 そわそわする気持ちを抑えながらゆっくりと歩く。 浴衣を着ると自然と動作はゆるやかに上品になる。決して動きにくいわけではないのに。 美しい着物姿をより美しく見せたいと思うからだろうか。 心なしか普段より人目を引いているような気持ちになる。 履きなれない下駄が更に歩みを遅くする。でもそれも悪くは無かった。 ゆっくり静かに動くことで、普段とは違う時間の流れを体験できる。いつもと違う 景色も見えてくる。 年に一度しかないイベントを、余すところ無く満喫するにはうってつけだった。 「ラブ~せつな~こっちよ」 「ラブちゃんもせつなちゃんも可愛い」 待ち合わせ場所は決めていたものの、人だかりが多すぎて合流に手間取ってしまった。 やっと揃って安堵の表情を浮かべる。 美希と祈里ももちろん浴衣姿。美希は紺に近い青地に蝶の柄。黄色い花柄模様の浴衣帯。 大人の雰囲気。 祈里は黄色の生地に赤い金魚の柄。黄緑の無地の浴衣帯。美希とは対象的に幼く可愛い 印象だった。 まずは広場に設立されたメイン会場に向かう。地元出身の超人気ダンスユニット “トリニティ”のステージがあるのだ。 会場に近づくにつれて祭りの露店も増えてくる。無数の屋台がひしめき合い、 競い合う様子は圧巻だ。 色んな食べ物やおやつの匂いが交じり合って食欲を刺激する。 屋台の垂れ幕や所狭しと突き立つのぼりが雰囲気を盛り上げる。 大きさを増す囃子と威勢のいい売り子の掛け声。五感の内の四つを刺激されては たまらない。 「あ~~もう我慢できないっ! おじさ~ん、たこ焼き四つお願い」 「ちょっ! ちょっと、ラブ。アタシはいいわよ。自分で食べるものは選ぶから」 「美希ちゃんは食べ過ぎたら大変だものね」 「………………………………」 せつなはしばらく呆然として、その後吹きだしそうになるのを必死で堪えた。 美希のタコ嫌いは秘密なんだ……。幼馴染なのによく隠し通せてきたものだと思う。 ジト目でサインを送ってくる美希の様子がまた可笑しかった。 おじさんに椅子を貸してもらって熱々の内に頂いた。 タコ焼きは屋台の食べ物の中でも一番人気だ。そして、冷めたら極端に味の落ちる 料理でもあった。だから最初に食べるのが良いのだとか。 食べながら歩けるのも人気の理由なのだが、浴衣姿の女の子はそうもいかない。 次に目をつけたのはりんご飴。赤い果実が飴に覆われてキラキラと輝く。大きいのは 我慢して、選んだのは姫りんご飴。 隣にはチョコバナナ。これも色んなトッピングが美しかった。小さなコーンが帽子の ように被せられて、顔が描かれてるものもあった。 突き刺したポッキーは腕の代わり。「これじゃカカシよね」と祈里が呟いて周囲の お客さんも大笑い。 せつなが目をつけたのはわた飴。砂糖を入れるだけで出てくるふわふわのお菓子。 味は駄菓子屋で知っていたものの、作り方が不思議だった。 「お嬢ちゃん、やってみるかい?」と声をかけられる。せつなは乗り出すように 見つめていたことに気がついて、恥ずかしくて真っ赤になる。 おそるおそる割り箸に絡めていく。作りたてのわた飴は、ふんわりしててとろける ような甘さだった。 そして会場に着く。 今年のゲストはトリニティのみ。スケジュールに余裕が出来たため、コンサート形式の 立派なステージプログラムが用意されていた。 まだ時間が早く、その前のイベントである一般参加のダンスコンテストが始まった ばかりだった。 コンテストというのは名ばかりで、楽しく踊る姿を見てもらうのが目的だ。昨年の 漫才大会がそうだったように。 始めたばかりで動きがちぐはぐなユニット。緊張して転んでしまうユニット。 お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。 でも―――― みんな、本当に楽しそうだった。失敗すらも会場の笑いに変えて。その後、ちゃんと 励ましの声援を送ってもらって。 せつなたちもクローバーの活動を思い出して懐かしい気持ちになった。そして、 ちょっとうらやましかった。 クローバーはプロを目指すユニットだった。その練習は厳しく、楽しむという感じでは なかった。 人前で踊ったのはダンス大会だけ。不安と緊張との戦い。それはそれで充実していて、 素敵な思い出だけど―――― 「こんな風に、踊ってみたかったな」 ポツリとつぶやいたラブの言葉に全員が一瞬驚いて――そして、頷いた。 みんな同じ気持ちだったから。それぞれの道を歩んではいても、みんな本当にダンスが 好きだったから。 ダンスコンテストが終わり、順位の発表と景品の授与が行われる。優勝したのは ダンス大会の一次予選で見かけたユニットだった。 そしてしばらくの休憩を挟んで、メインイベントが始まる。 「皆様、お待たせいたしました。これよりクローバ-フェスティバル特別企画、 トリニティのスペシャルステージを開催します」 司会者が宣言してトリニティがステージに上がる。巻き起こる盛大な拍手。 会場は同じ。照明も音楽もダンスコンテストと特に変わることは無い。 しかし――――空気が一変した。 ミユキ、ナナカ、レイカ。たった三人の登場で会場が別の空間に姿を変える。 彼女たちの声に、視線に、魔力でもあるかのように。一挙手一投足に神秘の力でも あるかのように。 全ての観客から私語が消える。バラバラに楽しんでいた人たちが一つになっていく。 全ての意識は一つに。全ての関心は一点に。体を揺らし、腕を振り、合いの手を入れる。 美貌? 技術? 知名度? そんなものでは説明しきれない真のダンサーの魅力、 吸引力を思い知る。 せつなも、美希も、祈里も、久しぶりに見るトリニティのステージに魅了される。 ただ一人――――ラブを残して―――― 「ラブ――ラブ――どうしたの?」 せつながラブの様子のおかしいのに気付いて声をかける。 喜びと興奮に包まれる会場において、一人切なく悲しそうな表情を浮かべる。 拳は固く握り締められ、相当な力が込められていることを示すように両腕が小刻みに 震えていた。 「せつな……。大丈夫、なんでもないよ。トリニティのダンス、やっぱり凄いね」 「ええ……そうね」 せつなはそれ以上は追求せずに、ラブの拳をそっと開いて手を握った。 それでラブも落ち着いた様子だった。しかし、ステージが進むうちに再び様子が おかしくなる。 何かをこらえるような表情、せつなの手が痛みを感じるほど強く握られる。 もう――理由を聞くまでも無かった。 せつなの表情が後悔に歪む。ダンス大会で優勝したクローバーには、本来は プロデビューへの道が開けていたはずだった。 だが、せつながラビリンスへの帰還を宣言したことでクローバーは本来の姿を失った。 残された三人はせつな抜きで続けることを望まなかった。 美希と祈里もまた、それぞれモデルと獣医の夢を追うことになり、クローバーは 解散した。 ただ一人――ラブの夢を置き去りにして。 再会した時の、震えるラブの体を思い出した。溢れる涙を思い出した。 酷いことをしたと思う。ラブは家族として愛してくれた自分と、掴めたはずの プロダンサーへの夢を同時に失ったのだ。 それでも笑顔を絶やすことなく励まし、送り出してくれた。 平気なはずはない――平気なはずはないのに―――― 「せつな、どうしたの? 泣いているの?」 「ラブ……ごめんなさい。私は……そんなつもりじゃなかった」 いつの間にか立場が逆転していた。気が付くとステージは終了し、ラブの様子も元に 戻っていた。 湧き上がる心のまま謝罪の言葉を口にする。でも――そんなつもりじゃないなら、 どんなつもりだと言うのだろう。 あの時の私には、ラブのことまで考える余裕が無かった。私が成すべきことを知って、 果たすべき使命を見つけて、それで精一杯だった。 今度は、みんなにも幸せになってほしかったから。 だから――最も愛してくれた、助けてくれた、支えてくれた人の幸せを犠牲にして しまった。 ううん――本当はそんなことすら、考えようとしなかった。 「せつなは悪くないよ。全然ちっとも――悪くなんてないんだから」 ラブはそれだけで全てを察してせつなを抱きしめる。そして、そっとせつなに ささやいた。 「あたしは幸せだよ。だって、せつなと一緒だもん」って。せつなの瞳に浮かんだ涙が 一粒の雫となって流れ落ちる。 「ラブ、せつな、どうかしたの?」 「何かあったの? ラブちゃん」 「あ、ううん、なんでもない。久しぶりのコンサートで感極まっちゃったみたい」 せつなはラブの腕の中でそっと涙をぬぐった。脳裏によみがえる記憶。巨大ドームで ピーチに抱きしめられたことを思い出した。 あの時と――同じだと思う。ラブは私と出会ってから傷付いてばかりいる。 繰り返される後悔と自責。私の人生はこんなことばっかりだ。 私は人を――――不幸にする。 でも――それでも――今を頑張るしかない。過ぎてしまった時間は戻らないから。 ひとつひとつやり直していくしかないんだ。 顔を上げてラブと視線が合う。優しさと愛情に溢れた瞳が語りかけてくる。 「せつなは何も心配しなくていいんだよ」って。 小さく頷いてラブから離れる。心配そうにする美希と祈里に笑顔で振り返る。 今の私にできること、それは――今日という一日を精一杯幸せな日にすること。 「さあ、行こう! 美希たん、ブッキー、せつな。お祭りはこれからが本番だよ」 辺りはすでに薄暗くなっていた。 昼間のお祭りとは全く違った趣があらわれる。 賑やかな飾りにすぎなかった提灯がその真価を発揮する。 暗闇の中で揺れる光の波。夜空にうねるように走る、幾千もの灯りが描く軌跡の美。 ただ綺麗というのではない。何か心を躍らせる、楽しい気持ちにさせる力が感じられた。 自然の生み出す輝きとは異なる美しさ。街の美しさ、祭りの美しさは人の心が生み出す 幸せの煌き。 無数の屋台が灯りをともし、夜店へと姿を変える。祭りを楽しむ人たちの笑顔を明々と 照らし出す。 街の人全員が一つの生き物であるかのような不思議な一体感に包まれる。 普段なら同じ場所に居ても、目的は人により様々だ。 大勢の人が同じ目的で同じ場所に集い楽しむ。街全体で心を一つにして楽しむ。 きっとそれが祭りなんだと思った。 「う~ん、どれも美味しそう」 「種類も多いけど、同じものがあちこちで並んでるのね」 「ちょっと歩けば大体そろっちゃうね」 「甘い甘い。匂いやお店の人の手付き。使ってる具材。選ぶ要素は沢山あるのよ」 焼きとうもろこし。イカ焼き。この二つは匂いが素晴らしかった。クラクラしてくる ほどに。 焼きソバにお好み焼き。チジミに焼き鳥。鉄板で焼く小気味良い音と立ちこめる煙が 食欲をそそる。 フランクフルトにフライドポテト。ラーメンにおでん。日頃見慣れた食べ物が、 祭りの中では抗いがたい誘惑を放つ。 結局選ぶことが出来ずに、みんなバラバラに違うものを買って少しづつ分け合って 食べた。 お祭りに慣れていないせつなに楽しんでもらおうと、せつなの皿にはたくさん盛り付け られた。 とても全ては食べきれない。「ラブ、あーん」せつなはラブの口にせっせと運ぶ。 ラブの頬に冷汗が流れた。 腹ごしらえが済んだら他の夜店を見て回る。 射的。ダーツ。輪投げ。ヨーヨー釣り。景品に欲しいものが無くて挑戦しなかったが、 見ているだけで楽しかった。 そして、ひときわ大きな子供たちの声に足を止める。聞いたことのある名が出てきた からだ。そこは金魚すくいのお店だった。 男の子と女の子の二人。手元にはたくさんの破れたポイが散らばる。あれでは子供の お小遣いはかなり圧迫されるだろう。 ヌシと呼ばれる大きな金魚を狙っているらしいが、見る限りとてもすくえそうに なかった。 「ちっきしょー、隼人あんちゃんならこんぐらいわけないのにな」 「今年は来ないのかな? いっぱい探したのにね」 「ねえ、あななたち。隼人って言ったわよね?」 「言ったよ。図体でかくて馬鹿だけど、金魚すくいはすっごく上手だったんだ」 「おにいちゃん口が悪いよ。優しくて面白いお兄ちゃんなの。お姉ちゃんお知り合い?」 「ええ、残念ながら知り合いよ。あの金魚をすくえばいいのね、私にやらせてみて」 手にしたポイは二つ。構造は針金の輪に和紙を貼り付けたもの。水の付加をかければ あっという間に破れてしまうだろう。 だったら追いかけるのではなく、待つ。ヌシの進路を予測して頭の位置にポイをそっと 沈める。乗った瞬間に水面と平行に滑らせるように持ち上げる。 しかし――後少しということろでポイが破れ逃げられてしまった。落胆する子供に、 次は大丈夫よと声をかける。 気をつけるのは尾の動き。全身をポイに乗せては駄目なのだと知る。今度は更に慎重に、 頭と尻尾を枠に乗せるようにしてすくい上げた。 店主さんはやられたなあと頭をかきながらヌシを袋に入れてくれた。小さな袋に大きな 体。少しの間我慢してねと謝った。 ヌシは赤と白の対照がきれいな金魚だった。サラサリュウキンという品種だと祈里が 教えてくれた。 そして子供たちにプレゼントする。今年は隼人は来られないから、その代わりだと 言って。 「やった! 姉ちゃんも凄いな」 「ありがとう、お姉ちゃん。でしょ、おにいちゃん」 「いいのよ、大事にしてあげてね」 子供たちのキラキラ輝く尊敬の眼差しに気恥ずかしさを覚える。仲良く手をつないで 帰る二人を、せつなは手を振って見送った。 凄い……か。隼人もそう言われていたらしい。 ラビリンスで受けてきた訓練。他人を傷付け奪うための技術でも、使いようによっては 笑顔を生むことも出来る。 決意を新たにする。今度こそ自分の命を、力を正しく使って生きていこうと。 クローバーフェスティバルもいよいよ大詰め。ラストを盛大に飾る、花火大会が 行われる時間になった。 爆音と共に閃光が闇を切り裂く。 幾多の星が煌く夜空も、今夜ばかりは主役の座を奪われる。 一瞬の沈黙の後に開花し、色鮮やかな大輪の華を咲かせる。 次々と打ちあがる花火は、息つく暇も与えず大音響と共に振動を体に伝える。 低空で炸裂する庭園花火。見上げる必要すらなく、迫力を持って見るものに迫ってくる。 直径二百メートルを超える尺球。視界いっぱいに広がる星が球状に飛散する。 網仕掛。遥か上空より、光の雨が滝の如く降り注ぐ。 スターマイン。時間差で連続で爆発し、美しき光の絵画を夜空に描く。 繊細かつ大胆。儚くも激しい音と光の競演。見るのではなく、記憶に焼き付けられる ような美しさ。 「ねえ、せつな。花火ってね、一発一発がいろいろな思いや願いをこめて作られて いるんだって」 「人の手で作られているの? あれだけ大掛かりなものが?」 「うん、長い時間をかけて色んな工夫を重ねながらね。花火職人さんの夢を乗せて咲く から美しいんだって」 ラブがせつなの手をしっかりと握る。そして、ささやく。「いつかあたしたちも、 大きな夢を咲かせようね」って。 せつなは返事ができなかった。ただ、強く――強くラブの手を握り返した。 凄い数の花火が同時に上がる。耳をつんざく炸裂音。眩しいほどの強烈な閃光。 無数の色の光が更に次々と変化していく。形を変えながら夜空一面を染め上げる。 感動のフィナーレだった。 「美希たん、ブッキー、今日はありがとう。またね」 「ありがとう。本当に楽しかった」 「また四人で見られるなんて思わなかったもの。アタシこそありがとう」 「うん、おじさんとおばさんにもよろしくね」 ゆっくり歩いて家路につく。同じ緩やかな歩みでも、帰りの足取りはなぜか重い。 皆、祭りの余韻を惜しむかのように―――― 「ただいま、おとうさん、おかあさん」 「ただいま。遅くなってごめんなさい」 「おかえり、ラブ、せっちゃん」 「しっかり楽しんできたかい? 後悔しても後の祭りだぞ」 圭太郎の冗談で苦笑ながらも二人の間に笑顔が戻る。ラブもせつなも、なんとなく 元気がなかったので気を使ったのだ。 「まあ、祭りの後というのはそういうものだ。楽しみだった分、終わると喪失感が 大きいんだよな」 「ラブは毎年だけどせっちゃんまで。やっぱりお祭りの後は寂しい?」 「はい――少し」 「あはは、今から来年が待ちきれないよ」 本音を語るラブと、嘘を――――ついたせつな。 せつなは特に寂しいとは感じなかった。この家で過ごすことこそが一番大切な幸せ だから。 戸惑いを覚えるほどに、申し訳ないと感じるほどに、得がたい幸せだと思うから。 元気がないんじゃない。ただ、考え込んでしまっていた。 胸に渦巻く想い。コンサートの時のラブの様子。 手の届かなくなったものを苦しそうに見つめる瞳。伝わってくる激しい喪失感。 あれが――夢だと言うの? 花火を見ながらラブが言ってくれた。一緒に夢をつかもうって。答えられなかった 自分への歯がゆさ。 夢って何だろうと思う。幸せを導く大切な願い。わかるのは、ただそれだけ。 私の心からの願い。みんなを笑顔と幸せでいっぱいにしたいという想い。 これとラブや美希やブッキーの描くものは果たして同じなのだろうか。 わからないから逃げてきた。考えないようにしてきた。そんな気がした。 だから向かい合おうと思った。すぐには見つからなくても、探していこうと思った。 教えてもらうものじゃないような気がした。 必ず見つけてみせる。私の本当の夢。夢というものの真実の姿を。ラブと――一緒に。 「ねえ、ラブ! 私――精一杯がんばるわ!!」 「えっ、どうしたの? せつな」 「ふふ、なんでもない」 せつなの表情に明るい輝きが戻る。それはラブに、圭太郎に、あゆみに伝わり、 たちまち桃園家に明るい笑い声が響き渡る。 きっと見つかる。この街でなら。ラブや美希やブッキーや、おとうさんとおかあさんと 一緒なら。 せつなの決意をやさしく包みながら、幸せの街の一番幸せな日は静かにその一日を 閉じた。 新-063へ
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桃園ラブ24歳、いろいろあって学生時代からとある会社でバイトをしていたが、持ち前のバイタリティが認められついに社員に登用。 ところが、そのバイタリティが予期せぬ方向で買われていきなり転勤、四つ葉町から遠く離れた町で働くことになった。 しかも今年は特に忙しく、年末年始の休みも返上という有様。 楽しみにしていた四つ葉町への帰省ができなくなり、 今はラビリンスにいるせつなに泣きついた。 「ラブ、どうしたの?」 「うぇ~ん、せつな~、仕事が忙しくて正月だというのに四つ葉町に帰れないよ~」 「そうなの?本当はね、私もここのところ急に立て込んできたから、実家に帰れても2、3時間ほど居られるかどうか…… じゃあ、私、大晦日にラブのところに行くわ」 「ほんと? 今からでも大丈夫なの?」 「まあ…… でも、なんとかするわ」 せつなもラビリンスではいろいろ責任のある身ゆえ、異世界への移動は極力控えているが、 他ならぬラブのためである。今回はウエスターやサウラーに留守を任せることとした。 「ウエスター、サウラー、何時間かだけ留守にするけど後をお願いするわ!」 「そうだね……美希の最新の写真集で手を打とうか」 「サウラーも結構諦め悪いわね……」 「イース、あの世界のうまいもの頼んだぞ!」 「……わかったわ」 大晦日の夜、残業を終えたラブは年越しそばを調達しようとコンビニに向かった。 「さすがにスーパーだと大晦日は閉まるのが早いもんなあ…… おそば~おそば~って、 え?みんな売り切れじゃん!」 皆考えることは一緒である。 「しょうがないなあ……もう○ッ○ヌードルしかないじゃん。まあ同じ麺類だししょうがないか。せつなとあたしの分、と! あ、期間限定のミルクシー○ード味だ。これも1個買っとこおっと」 アパートに帰ったラブが電気をつける。 「やれやれ……もうそろそろかな」 周りが赤く光ったかと思うと、せつながラブの部屋に現れた。 「ラブ。こんばんわ、かしら?」 「せつなー!」 「キャッ」 ラブがせつなに飛びつく、お馴染みのシーンである。 「今日も残業だったの?」 「明日も正月返上で仕事だというのに今日くらいは勘弁して欲しいよ」 せつながまだ弾力の残る赤いクッションに座る。 普段は使われないせつな専用であり、 同僚がたまに来るときは、インテリアと言い張っているらしい。 「今年は四つ葉町に帰れないのね」 「ごめんねー、今年は正月返上だよー」 「この世界では正月というのがあって、みんなお休みをするものだと 昔きいてたけど、そうじゃないのね」 「お父さんやお母さんが子供のころはそうだったらしいんだけど、 今はお店なんて年中やってるくらいだからね~」 「ラビリンスはもともと正月のようなものがないから、そんなに変に感じないわね」 「パートのころはさすがに正月まで出勤しろとは言われなかったよー」 「四つ葉町にはまた別の日に帰れるの?」 「そうだなあ……3月くらいにはさすがに休みが取れそうだからその時に帰ろうかな」 「そうね……私もそれくらいには休暇をもらおうかしら」 「お父さんもお母さんも喜ぶよ」 ラブが小さな台所に向かって、年越しそばならぬ年越しヌードルの準備をする。 トポトポトポトポ…… 「せつな、年越しそばだよ~、3分間待っててね。」 「年越しそば……って、こんなだったの?」 「たはは……帰りにあわててコンビニにいったら、もう○ッ○ヌードルしかなくってさ、これもそばだし、しようがないかなって……」 「こういうそばもあるのね。初めて見たわ」 「お母さん、カップ麺は家では出さなかったからね。でも、意外と美味しいんだよ。」 「3分経ったわ」 せつなはかつてラビリンスの戦闘用員であったころの訓練により、時計を見なくても正確に時間がわかる。 「ほんとだ。いつも、時間忘れてのびちゃうんだー。さ、食べよ!いただきまーす」 実はラブにとってはこれが実質夕ごはん。 ズルズルズル…… 勢いよくすする。 「くっはー!空きっ腹にしみるぅー!せつなもずずっといっちゃって!」 「精一杯頑張るわ……(ズッ!)ごほっ、ごほっ!」 「ごめん、せつな。無理に勢いよくすすらなくていいんだよ。普通に食べて」 「難しいわね……(ちゅるちゅるちゅる)美味しいわ!これ、持って帰っていいかしら?」 「いいよ。期間限定のがあるけど持って帰る?一個しか残ってなかったし、今日はせつなと一緒のが食べたかったからね」 「ありがと、私もラブと一緒のそばが食べられてうれしいわ。(ミルク?ウエスターに食べさせるには注意が必要ね……) そこにある雑誌も持って帰っていい?」 「今月号のA○○C○○だね?美希たんの特集なんだよ!表紙も美希たんだし」 「ありがと、助かるわ」 「え?」 年越しそばならぬ年越しヌードルを食べて、二人は一息つく。 「せつな!除夜の鐘を撞きに行こうよ」 「除夜の鐘? 前に四つ葉町に帰ったときにテレビに出ていたわね」 「この町には古い寺があって、毎年近所の人たちが除夜の鐘を撞いているんだ」 「鐘って、お寺の人が鳴らすんじゃないの?」 「ここのお寺は、みんなが順番に撞くんだよ」 「素敵ね……」 アパートを出て10分ほど歩くとお寺に着いた。 「ちょっと家出るの遅かったかな?」 「もうずいぶん並んでるわね」 「あ、始まったよ」 ご~ん…… ご~ん…… 「除夜の鐘は108回なんだよ……」 「どうして108回なの?」 「108つの煩悩ってのがあるんだって」 「煩悩って、なあに?」 「えーっと…… 悩みごとらしいよ。108回鐘を撞いて煩悩を消す……らしいよ?」 「そうなの? ということは私たち、煩悩を浄化するのね?」 「……うーん、そうだね!」 少しは大人になったところを見せようとしてうろ覚えの記憶を精一杯引っ張り出すラブと、 若干勘違いしているらしいせつなであった。 ご~ん…… ご~ん…… 「今年はいろいろあったよ、もともとパート入ったあたしが社員になった途端いきなり 転勤になるわ、君なら出来るって営業回りやら何やら初めてのことばかりでびっくりだっだよ……」 「大変だったわね、でもラブならできるわ」 「せつなも、ラビリンスの幸せのために今も頑張っているんだよね」 「ええ」 ご~ん…… ご~ん…… 「美希たんは相変わらず海外を飛び回ってるんだ」 「大変ね、今度はいつ日本に帰るの?」 「春には帰国するって言ってたよ」 「私たちが帰省できるときと一緒ならいいわね」 ご~ん…… ご~ん…… 「ブッキーも今年は卒業研究で四つ葉町には帰省しないんだって」 「もうすぐ獣医になれるのね」 「ブッキーならいい獣医さんになれるよ」 ご~ん…… 「さあ、順番か来たよ、一緒に撞こうね」 「精一杯、頑張るわ」 せつなとラブが撞木の綱を握る。 「これで鳴らすと煩悩が浄化出来るのね!」 「……そうだね」 「いくわよ、ラブ!はあぁぁーっ!」 「ふえっ?」 せつなが体をしならせ、力いっぱい撞く。 一瞬髪の毛が銀色に見えたとか見えなかったとか…… ゴーン(音量5割増し) 「なんか耳が痛かったよ……」 「ごめんなさい、でも煩悩は浄化できたわ」 「そうだよね~ あれだけ大きな音だと変なのも逃げていくよ! そうそう、鐘を撞いた人には、お堂で飴湯をふるまってくれるんだよ、行こう!」 「ええ」 ご~ん…… ご~ん…… 「はあ……あったまるぅ…… せつなも飲んでごらんよ、あったまるよ」 「ありがとう…… 本当に美味しいわ」 「でしょ? ここの飴湯はすっごく美味しいってきいてたんだ」 「(これはウエスターにはもったいないわね)」 ご~ん…… ご~ん…… 「そろそろ12時だよ、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1! あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」 「……あけましておめでとうございます……今年もよろしくお願いします、 こういうのっていいわね」 ご~ん…… ご~ん…… 「今、109回目の鐘が鳴ったわ、どして?」 「えーっと、現代人は大変だから煩悩が昔より余計にあるんだよ」 「この町の人ってそんなに悩んでるの?」 「ここも、四つ葉町と同じくらい幸せな街だよ。ただこの世界の人も いろいろ大変なんだよ」 「そうなの……でも、さっき強く鳴らしたから煩悩は浄化されたわ!」 「……そうだね」 飴湯も少し冷めてきたので、二人は冷たくならないうちに残りを口に含んだ。 「そろそろ行こうか」 「ええ」 「ごちそうさま!」 湯呑を返却した二人は、寺を後にした。 「寒くなったわね」 「そっか、せつなはこの世界の寒さに慣れていないんだね……」 ラブはせつなの背中を抱きしめた。 「あったかいでしょ?」 「ええ、とっても……でも少し恥ずかしいわ」 「だいじょうぶだよ、女の子同士ならそんなにおかしくはみられないよ」 「ほんと?でも……ありがとう、しばらくはこうしてて」 「……うん!」 そのまま二つの影が一つになる。 「そろそろ帰らなきゃ」 「やだ、もっとこうしていたい」 「ごめんなさい…… 今度の休みにはゆっくり会えるわ」 「そうだね…… それまで仕事、精一杯頑張るよ」 「私もラブに会えて、幸せゲットだったわ」 せつなの体が赤く光り、そしてラビリンスへと帰って行った。 ラブはせつなのいたぬくもりを噛みしめつつ、明日の仕事も頑張ろうと思ったのであった。 ***** 一方ラビリンスに戻ったせつなは、留守を頼んだウエスターとサウラーにお土産を渡したものの 「イース、写真集にしては思ったより美希の写真が少ないね?」 「え?そうね、あの世界の写真集はこれが常識なのよ」 「いーすぅ~!これってうまいなぁ~、ひっく!」 「ウエスター、勝手に食べたらダメじゃない! これじゃ明日は仕事にならないわ……」 「この写真集には男性の写真もあるのかい?」 「これもあの世界では常識なのよ(汗) あ、ラブからメールだわ」 SUB 無事に着いた? 明日起きられるかわからないよ~(ToT) お願い、起こしに来て(^^) 「はあ……ラブまで……」 SUB Re 無事に着いた? 自分でちゃんと起きなさい! 「煩悩はちゃんと浄化したはずなのに、どして?」
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ベストSS結果 得票数 【雪原】SS その1(投票数:15) 脱帽。最高のSSだったと思います。 やはり、今大会屈指の完成度を誇るといえば、このSSをおいて他にないでしょう。極上のミステリーにして、能力バトル。ハードボイルドにして、エモーショナル。なんだこれ。本当にこれ一週間で描いたのか。読者全員を魅了し、そして、参加者全員を絶望の底に叩き落した、まさに傑作と言えると思います。 言わずもがな。最強のSSでした。 3日で書いたんですってこれ。なんなの。大好き。 もうだめだ……このキャンペーンはおしまいだ……と思いました。原点にして最強。 シリアスキャラをシリアスなまま格を落とさず戦わせるお手本みたいなSSでした 印象が強烈過ぎました。真野ぉ……お前ほんとそういうところだぞ……。 構成に隙がなさすぎる いやーーー勝てんわ!!!なにあれ!対戦ありがとう! 【戦場跡】SS その1(投票数:10) 未知数のリザーバーが見せつけてきた実力に度肝を抜かれた&対戦相手二人の魅力の描き方が本当に好きなSS。 これはりうむちゃんベストSS取るわと思いましたね(こなみかん) 井戸浪さんが自分の目的を達成して本人的には勝利しているところ、めちゃくちゃ好きー! 正直完全にナメくさっててチェックしてなかったリザーバー枠から、二回戦進出者に全く見劣りしない(どころか今や優勝に片足かかってる)作品が現れて、本当に衝撃を受けました。いやもうめちゃくちゃ動揺した。よかったです。 各キャラクターの行き先が上手すぎて、思わず声を出しました。凄まじかったです。 3名の勝者エンドは見事としか言いようがない なんだ……!?予選落ち……?42人のぱわーだと~~ッ!? ……わけのわからねーことをほざいてんじゃね――ッ!!俺は正々堂々、ガンバーストでしか投票しねえ!! 投票だテメェ……!! つべこべ言わずに……ガンバトルで投票しろって言ってんだよォォ――ッ!! リザーバー予選で該当なしに票を入れた人々に対して最高のカウンターパンチを食らわせてくれた気がしてスッキリした。 【天国】SS その1(投票数:5) 1回戦でこれが一番好きで、初心者の自分にダンゲロスSSの面白さを印象づけてくれたSSでした。 全SSの中で最もドラマとして好きだった物語。氷砂糖の記憶から始まり、総理の信念を描き、理想に生きる彼の在り方を持ちあげておいて勝利につなげる、ため息がでるほど美しい一連の流れ。澪木さんの『TDL』の真骨頂ここにありといえるでしょう。本当に素敵だった……。 則本の祖父が好きすぎるので仕方ない 【夢の国】SS その3(投票数:5) 真野の使い方が上手かった。惜しむらくは時間の壁。でもベスト3内に入る面白さだったと思います。 4万字オーバーの化け物じみた物量に込められたあまりの面白さ。試合の結末まで含めて極上のエンターテインメントでした。 SSはここまでやりたい事を詰め込んでもいいんだ…!という、目から鱗の体験でした。読後感が異常に爽やか。 解釈と解答がスマート……というには肥大化したボリュームですが、とてもよかったです。 【博物館】SS その1(投票数:4) 好きとしか言いようがない キャンペーン中で一番笑った 【ピラミッド】SS その1(投票数:4) 推しのSS、贔屓目を抜きにめちゃくちゃ好きなんだよなぁ……贔屓目も多分にあるけど。 この能力バトルがすごい!! 負けた奴だけど決着含めて一番好きかもしれない。一回戦ベストはこれにしたはず。 全体的に美しく、無駄の全く削ぎ落とされたボリュームであるところが最高。 【オフィスビル街】SS その1(投票数:4) 澪木かっこいい。ここまでのSSの要素や伏線の拾い上げ方が丁寧で、読み込んでる方なんだなと感心させられました。 3人も書かなきゃならないと、かなりとっちらかりそうになりますが、非常に情報密度が濃く、それでいて視線はバラけずに読みやすくて、肝心の部分はどれも押さえたハイクオリティなSS。三者三様のその後がどれも大好きで彼ららしく、胸を張ってベストと言いたいです。 文体レベルで相手のスタイルを取り込むモブおじさん(の書き手の滝口さん)の恐ろしさが如実に表れているSS。とにかくキャラの誰も彼もが魅力にあふれ、文章演出は格好よく、話は盛り上がりと強烈な試合でした。脱帽です。 【夢の国】SS その2(投票数:4) 好きなんだよなー…あの5秒間(+1秒)含め戦闘の描写といい、それに至るまでの雰囲気といい、最後の締め方といい、好きなんだよー…これで徒士谷さん完全に最推しになったと言っても良いレベルで好きなんだよー……好きです(告白) なんといっても、「5秒」が圧巻でした。その3も全体として好きだったけど、好みで言えばこれ。 【洋館】SS その2(投票数:4) 本企画のトリを飾るに相応しい、最終決戦の片割れ。戦った二人の、戦いに身を投じた皆の明日を想像させるエンディングには、この企画に触れてよかったと思わされました。 このキャンペーンをまとめるにふさわしい終わりだったのではなかろうか!と!思う!好き! 最後を飾るのに相応しいSSで、ここまでの戦いの結果をまとめきったところが良かったです。 この決勝でこんな正統派バトル的展開を見せるとは、と。奇をてらった要素はいくつもありつつ完成度は真っ当なんですよね。 プロローグ(暗黒騎士ダークヴァルザードギアス)(投票数:3) 完成度が高すぎて度肝を抜かされました。こんなにコンパクトに出会いとバトルを描写できるものなんですね・・・! やはり出色のプロローグだったということでこれを選ばずにはいられない、暗黒騎士序章。ダークヴァルザードギアスの旅立ちばかりでなく、最後にアナスタシアの誕生まで書いている点が本当に技巧且つ強力ですよね。パワーだぜ。 なんだ……!?暗黒……?騎士だと~~ッ!? ……わけのわからねーことをほざいてんじゃね――ッ!!俺は正々堂々、ガンバーストでしか投票しねえ!! 投票だテメェ……!! つべこべ言わずに……ガンバトルで投票しろって言ってんだよォォ――ッ!! プロローグ(ファイヤーラッコ)(投票数:3) コメントなし 【体内】SS その2(投票数:3) 相手の手の内潰しがエグかったです。ローラ作戦のように、ほんとうに何もかも潰していた……。ちょっとしたホラーでした。 地形の解釈と利用、能力の使い方で、バトルすげーってなったSSです。「東海道中膝繰蹴」、徒士谷さんサイドが考えた技じゃないんですよ!?地形はバトルだけじゃなくてエモにも利用しているのですごく良かったです。 【洋館】SS その1(投票数:3) SSキャンペーンの歴史に残る決勝戦SS。もちろん内容も大々々好きです。 点数はあげられなかったけど、ベストには入れるぜ!書いてある部分は最高でした(作者は罪悪感を感じてくれよな!) プロローグ(井戸浪 濠)(投票数:2) 最初に読んだプロローグSS、というのも大きいとは思うのですが、それでも面白いものは面白いのです。彼の魅力を焼きつけるために用いられた能力、『シャッター・チャンス』の発想と応用も凄かったです。 【浮島】SS その1(投票数:2) コメントなし 【巨人の家】SS その2(投票数:2) 「あ、ここまで話を盛っていいんだ」と思わされました。シリアスもよし、戦闘中エロもよしの、ダイナミックなSSでした。 「ここまでやっていいんだ!」って勇気をもらえたSS。相手を自分なりに消化、トレースすることに少しためらっていたのですが、この大胆かつ気持ちのよい解釈は感動しました。読んで以降の自分の執筆に確実に影響を与えた作品。面白かった! 【地獄】SS その1(投票数:2) 名前こそ暗黒騎士でありながら、参加選手の中でも圧倒的な光サイドの住人。互いに戦闘の専門でないという立場でありながら、だからこそか必死に、どこまでも必死に喰らいついていく様子は、王道というものを見た気分になりました。1回戦は投票でマッチングを決めたため、かなり噛み合う戦いが多かったですね。このシステムは手間もかかるでしょうが、何とか次回も実装してもらえると嬉しいです。 ドラマ最推しです。全文をベスト地の文投票したいくらいに好きで、マッチング投票様々でした。ヴァル組がお互い名前で繋がってる部分とか、ハナちゃんが2人に自分とママを重ねる所とか、ハナちゃん側の最後の独白も本当好き。 【地獄】SS その2(投票数:2) さすが、女子のドラマを描くことに長けたGKによるハナちゃんの大舞台。敗けはしましたが、この心情面での盛り上げ方は好きですね。Day Dream Believerの使い方もグッド 【闘技場】SS その3(投票数:2) これなー、構文の使い方がうまくて好き~! 【希望崎学園】SS その1(投票数:2) サービス精神の塊ですね。キャンペーンの実に色々な所から要素拾ってきて、挙げ句の果てには動画まで作って、偽花火ちゃんはエロいし、偽花火ちゃんはエロいし、それでいてモブおじvsラッコのバトルはバトルとしてちゃんと決着つける。素晴らしかったです。偽花火ちゃんはエロいし。 幕間:2回戦夢の国その3・九暗影幕間if『Q:男の人ってそっちのほうが好きなの? 』(投票数:2) ごめんねフラガラッハがすきです。 九ちゃんかわいい。ごめんねフラガラッハ! プロローグ(阿呂芽ハナ)(投票数:1) コメントなし プロローグ(偽花火 燐花)(投票数:1) なんだ……!?放火……?魔術師だと~~ッ!? ……わけのわからねーことをほざいてんじゃね――ッ!!俺は正々堂々、ガンバーストでしか投票しねえ!! 投票だテメェ……!! つべこべ言わずに……ガンバトルで投票しろって言ってんだよォォ――ッ!! プロローグ(葉山 纏)(投票数:1) SSの雰囲気が好きでした プロローグ(恵撫子りうむ)(投票数:1) 反則スレスレだし確実に面倒くさいキャラ設定だけど思い付いたもん勝ちだろ感がすごい 【貨物列車】SS その1(投票数:1) コメントなし 【山岳地帯】SS その1(投票数:1) コメントなし 【博物館】SS その2(投票数:1) コメントなし 【豪華客船】SS その1(投票数:1) 右を見ても汚物! 左を見ても汚物!ならば勝敗を分けるのは・・・・・・!?マッチングを見た時点で、この世は、気軽に残酷な事が起きるのだと知りました。あんまりだよ。いや大歓迎なんだけど。 【雪原】SS その2(投票数:1) 策を潰される想定で平然と二の矢三の矢を用意しているきゅーちゃんが本当にかっこいいんですよね。ログインボーナスセリフも外連味が利いてて好き。 【闘技場】SS その2(投票数:1) 勢いが好き。 【夢の国】SS その1(投票数:1) 序盤の真野が見せる堕ちた英雄らしさと、敗退者を味方に引き入れるのが勝利には必要というクレバーな考え方が良かった。燐火ちゃんも良かった。 【体内】SS その1(投票数:1) エロトラップダンジョンの手落ちを除けばドラマ力ではその2よりこちらのほうが好み 『暗黒騎士ダークヴァルザードギアスエピローグ(とりあえず)』(投票数:1) SSの雰囲気が好きでした 幕間:夢の国その3幻の最終パート(投票数:1) これが完成されてたら我々遅刻ペナ入れても負けてたんじゃないですかね……みやこ、恐ろしい子……。SSの雰囲気が好きでした